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退職を言い渡す時

こんにちは😃コッシーと申します。

愛知県で介護事業を運営している会社の介護事業部の統括責任者をしております。

さて、僕が仕事をする上で一番辛いと思う仕事が職員さんに退職を言い渡す時です。

理由はその時々でさまざまですが、どんな事情にせよやはり良い気分にはなりません。

そしていつもめちゃくちゃ迷います。

退職を告げても良いのか、やっぱりやめようか、でもやっぱり・・・

大げさに言うとこの退職により人生が変わってしまう人もいるかもしれません。

でもそんな時あるパートさんに言われた事を思い出します。

「謝る必要はありませんよ。だってこの施設の責任者はあなたですもん」



数年前にMさんというパートさんに退職を言い渡した時の話です。

Mさんは長年うちの入居施設の厨房で働いてくれており、責任感が強く自分の体調が悪い時や家がいろいろと大変だった時にも、そんなことをおくびにも出さず本当に一生懸命働いてくれました。

あまりに一生懸命働き過ぎたせいなのか、ご病気で入院する事になり、数カ月お休みされていました。

それでも本人は現場復帰を目指して懸命に治療をされ、僕たちもそれを望んでいました。


退職はご家族の希望でした。


お休みされて3カ月ほど経ったころでしょうか。ご主人がうちの施設を訪ねて来られました。

神妙な面持ちをされていることから良い報告ではない事はすぐに分かりました。

「もってあと数か月とのことです」

風の噂でなんとなく病状があまりよくない事を耳にしていましたが、いざご家族からその事を聞くとやはり動揺しました。

「大変長くお世話になりました。本当に感謝しています」と本来こちらが言うべき事を逆にご主人から言われ、どう声をかけたら良いかを迷っていると、ご主人が続けざまにこう言われました。

「ご迷惑をおかけしているにも関わらず、こんなお願いをするのは本当に心苦しいのですが・・・」

ご主人からのお願いはこうでした。どうやら余命のことはMさんにはまだ話しておらず、Mさんは職場復帰を望んでおりそれを目標に苦しい治療をされてるとのこと。ただご家族としては残された時間を家族で穏やかに過ごしたいとのこと。でも頑張ってる本人にとても言い出せないとのこと。

そこで、こちらから退職を言い渡してもらえないか、というお願いでした。

退職という事になれば、本人が苦しい治療を続ける理由は無くなるのではないか、そうすれば家族で穏やかに過ごせるのではないかという事でした。

正直、迷いました。むしろ言いたくありませんでした。それは僕が悪者になるのが嫌だという事ではなく、退職を言い渡す事でMさんの希望を奪ってしまうのではないかという思いからでした。

「確かに落ち込むと思います。でもその後のケアは家族全員でやります。そちらに一切迷惑はかけません。ただ今頑張っている姿を見るのが辛くて辛くて・・・」

目に涙をためたご主人からこう言われ、僕は断る選択肢はないと思いました。

今まで頑張ってこられたMさんですから、やはり家族と一緒に過ごされるのが1番だと思いました。


その数日後にMさんが一時退院されご主人に連れられこちらに来てくださいました。

久しぶりに見たMさんはお世辞にも元気には見えず、すっかり痩せていました。

僕らの表情から察したMさんは気を使わせたくないからか「めちゃくちゃダイエットしたでしょ(笑)」と笑いながら言いました。

それに対し僕らも笑いました。

Mさんも他のスタッフも久しぶりに会ったのかしばらく談笑しました。

話がひと段落した頃、Mさんと二人きりにさせてもらいました。

今回の件は他の誰にも話をせず、全て僕の独断で行いました。


体調を聞いたり入院生活の話を聞いたりと他愛のない話をしたのち、Mさんの方から仕事の話をされました。

「もうちょっと待ってね。すぐ元気になって復帰するから」

その言葉におそらく僕の顔が曇ったのでしょう。Mさんはそれを見逃しませんでした。

「あ、やっぱりクビだったりするのかな(笑)」

Mさんのその言葉に僕は覚悟を決めました。

「Mさんごめん…本当にごめん!今までMさんが抜けた穴を他のスタッフがカバーしてくれてたけど、もう無理はさせたくなくて、申し訳ないけど、新しい人の募集をかけさせてもらいます。だから、だから、ごめんなさい…」

僕はMさんの顔がまともに見れず頭を下げる事でそれを回避しました。

頭を下げる僕にMさんは優しく言ってくれました。

「謝る必要はありませんよ。だってこの施設の責任者はあなたですもん。あなたが考えて出した答えですから。自信を持って!!」

頭を上げるとMさんは本当に優しく微笑んでくれていました。そして退職に際したった一つだけ条件を出しました。

「私から辞めたという事にしてください。私は誇り持ってこの仕事をしてきました。辞めさせられるのは私の誇りが許せないの。だからお願いします。私が自分から辞めたということにさせてください。」

いくら鈍い僕でもこれがMさんの優しさという事は十分に理解できました。

その日のうちにMさんは他のスタッフに退職の挨拶をし、笑顔で旦那さんと病院へ戻っていきました。


半年くらい経った頃でしょうか。ハガキと1枚の写真が施設に届きました。

差出人はMさんの旦那さんでした。ハガキにはMさんが亡くなった事。この施設に行くとMさんを思い出し辛くなるため書中での報告を申し訳なく思う事。最期まで家族みんなで過ごせた事に対するお礼が書かれていました。

そして写真にはご家族と一緒に笑っているMさんが写っていました。


あれから数年経っていますが、職員さんに退職を言い渡すか迷った時にMさんの声を思い出し、自分の心に従いどうするかを決めています。

先日も無断欠勤を繰り返すスタッフに退職を言い渡しました。

めちゃくちゃ罵倒されて最後は「死ね!」くらいの言葉を言い放ち去っていきましたが、僕は全然動揺も後悔もしていません。

だって僕は責任者ですから。ですよね、Mさん。


現場からは以上です。それではまた。

コッシー



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