人は人のために動く
こんにちは😃コッシーと申します。
愛知県で介護事業を運営している会社の介護事業部の統括責任者をしております。
さて、介護をする際に利用者で時々拒否される方がみえます。
その理由は様々ですが、入浴を嫌がったり、リハビリを拒否したり、食事介助を断ったりと、介護をされた方なら1度は経験されてると思います。
そんな時介護をする多くの方は「○○さんのためだよ」とか「歩けなくなっちゃうよ」といったように介護をする理由を『利用者本人のため』と訴えられます。
これは本当にその通りなんですが、しかし利用者にとってはそんな事は分かった上で拒否をしているケースが多く、結局は介護できないまたは強引に介護をしてしまう事があるのではないでしょうか。
今から紹介する僕の体験談はあくまでその解決策の一例として捉えていただき、こんなやり方もあるのねと参考にしていただけると幸いです。
うちの施設にIさんという女性のご入居者がおります。
Iさんは70代の方で、うちの入居者の中では年齢は若く、中々のわがままさんです。
昔からわがままだったらしく医師から止められてるにも関わらず暴飲暴食を繰り返し、若くして透析患者となっています。
腎不全などの方にとって透析というのは正に生命線であり、腎臓の最も重要な役割である、余分な水分・塩分や老廃物の排泄を代行してくれる治療法になり、透析を続けないと生きていけません。
Iさんは週3回1日3時間の血液透析をしているのですが、多くの透析の方は食事制限や水分制限があり、例えば1日800mlしか摂取してはいけないなどの厳しい制限があります。
そのためうちの施設では食事時の汁物を止めたり、お部屋の水道の量を少なく調整したりしております。
Iさんも水分制限があるはずですが、そんな事お構いなしに飲みまくり食べまくります。
僕らの知らない間に炭酸飲料やカップラーメンを買ってお部屋でこっそり飲んだり食べたりしており、うちのスタッフには見つかっては怒られ、時々病院からも「体重増えすぎです!」とカミナリを落とされています。
怒られてもIさんは悪びれる様子もなく舌をペロっと出していたずらっ子のように笑います。
またIさんは併設しているうちのデイサービスに週1回行っております。
うちのデイサービスは基本的に午前中に入浴と個別機能訓練を行い昼食後リハビリや集団レクリエーションを行っております。
そのため早く帰ってきたとしても15時くらいなんですが、Iさんは12時に帰ってきます。
入浴と簡単なリハビリをしてご飯を食べたらすぐ帰ってきます。理由は『いたくないから』です。どう?わがままでしょ(笑)
そんなIさんは僕をなぜか気に入っており、僕を見つけては捕まえて昔話をしたりします。僕もIさんから話を聞くが好きで、よく二人で談笑しています。
Iさんには二人の娘さんがおり、まだ娘さんが小学生くらいの時に旦那さんと離婚をされたとのことでした。
二人の娘さんは本当に優しい方達で、お二人ともちょくちょく施設に顔を出してIさんの様子を見たり確認されたりしています。
ご立派なお二人を1人で育て上げたかと思いきや、逆で、Iさん曰く娘二人に自分が育てられたとのことです(笑)
娘さんにもお話を伺うと本当にその通りで、「母があんなんだからしっかりするしかなかったです」と笑いながら話されます。
わがままなIさんですが娘さん達には本当に感謝している様子で、透析を嫌々続けているのも娘さん達から言われてるからだと思います。
そんなある日の事。
その日は僕は休日で、家でローストビーフでも作ろうかなと思っていたところ、施設から電話がかかってきました。
メールやLINEではなく直電の場合は何かトラブルがある事が多いです。
案の定この電話もそうでした。
「Iさんが透析に行かないと言って部屋から出てきません!」
「分かった!すぐ行く」
身支度をしてすぐに施設へ向かいました。
実は予兆はありました。前回の透析の際になかなか体重が引けず普段3時間のところ4時間かかりました。
帰宅したIさんは本当に疲れ果てており、次の日全く元気がありませんでした。
その姿見て嫌な予感はしていました。そしてその予感が当たりました。
Iさんは透析の出発時間になっても部屋から出てくる気配もなく、スタッフがいくら「透析しないと死んじゃうよ!」と訴えても、「もういい!死んだ方がマシだわ!」と全く応じず、籠城しているとのことでした。
僕の自宅から施設まで車で30分ほどかかります。
その間に僕はまず病院に連絡しました。病院から最悪明日連れてきてくれたら大丈夫とのことでした。
次に娘さんに連絡しました。娘さんは「最後は母に任せます、でも私たちは生きてほしいです」と言われました。
施設に到着し、Iさんのお部屋をノックしました。
「Iさん、僕です。」
「もう透析は嫌だわ。あんなしんどい思いするくらいなら死んだ方がええ」
「分かった。今日は透析は行かなくていいから話をしよう。ここだと声が聞きにくいから開けてよ」
そんな風に言うと、ガチャリと鍵があきました。
心配するスタッフをよそに、僕だけIさんのお部屋に入り話をしました。
Iさんはやはり前の透析が精神的にも身体的にも堪えたらしく、とても辛かったそうです。
あんなに辛い思いをしてまでこの先、生きていく意味があるのかと思ったとのことでした。
Iさんの話を聞いた僕はIさんにこう言いました。
「透析に行くか行かないかはIさんが決めれば良いと思うよ。」
おそらく説得されると思ってたIさんは驚いた表情をしていました。
「でもここに来る前娘さんと話した事だけ一応伝えるね。」
と言い、娘さんから言われた「最後は母に任せます、でも私たちは生きてほしいです」という言葉を伝えました。
Iさんは顔をぐちゃぐちゃにして声を出して泣きました。
泣きじゃくるIさんが落ち着くのを待ち、「どうする?」と聞きました。
Iさんは「今から行きます」と言ってくれました。
病院に連絡をしてIさんを病院に送りました。
車を降りる時にIさんが「今日休みだったんだろ。ごめんねぇ。」と舌をペロっとだして笑いながら病院へ入っていきました。
このように人は自分のためではなく人のためなら動く瞬間があります。
ただこれはその人が誰の為に動くのかを見極める必要がありますし、それを言っても受け入れてもらえる信頼関係が必要だと思います。
Iさんの場合は、ともするとIさんの気持ちを無視して娘さんをダシに使ったように感じる人もいるかもしれません。
しかし僕はIさんと過ごしていく中でIさんが娘さんのために生きたいと思っていると確信しています。
これはやはり時間をかけてIさんと信頼関係を築いたきたからこそなせる業だと思います。
人は人のために動く、のかもしれませんが、そのためには強い信頼関係の構築が必要であり、それは一朝一夕では築くことはできず、普段から利用者に対してそういう気持ちで接することが大事だと思いますが、おそらくほとんどの介護職員がそういう気持ちでお仕事をされてると思うので、ここで言うまでもないですね、きっと。
そんなIさんですが、昨日うちのデイサービスに行きました。
10:30ごろデイのスタッフから僕に連絡がありました。
「お風呂から出たIさんがもう帰るって聞きません!」
すぐにデイサービスへ行くと、そこには出口の前で仁王立ちしているIさんとそれをなだめるスタッフがいました。
「どうした?Iさん」と声をかけ、スタッフに「後は任せて」と伝え業務に戻ってもらいました。
「もう体がだるいから帰るわ」というIさんに「今Iさんが帰ると僕がスタッフから怒られちゃうよ。頼むからお昼ご飯までいてよ。」と伝えると、「あんたには負けたわ」と言ってフロアに戻っていきました。
すんなり戻るIさんに驚いたスタッフから「何て言ったんですか?」と聞かれましたが、「それは秘密かな。ね、Iさん。」とIさんの方を見ると、舌をペロっと出して笑っていました。
現場からは以上です。それではまた。
コッシー
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