【創作】プレゼント③
昨夜と同じ時刻、私は同じ海にいて昨日の不思議な体験を思い起こしていた。
あの少年は誰なのか、何が目的なのか。いくら考えても分からなかった。
ただ一つ言えることは、現実は何も変わっていないということだ。
私は今日も1人で海を見ながら人生に絶望し、涙を流していた。
そしてまた私の涙が頬を伝いポツリと落ちる。
「こんばんは。」
振り返るとそこにはあの少年が立っていた。
「物語は読んでくれました?」
「あなたは一体何者なの?なんであんな本を持ってるの?」
少年の質問に答えず自分の疑問を次々とぶつけた。
少年も私からの問いかけには答えることはなく嬉しそうな表情を浮かべる。
「そんな質問をするということは、本を読んでくれたんですね。」
「ふざけてないで質問に答えてよ!」
私は自分の疑問に一つも答えずニヤニヤする少年に腹が立ちつい声を荒げてしまった。
少年はそんな私を気にするそぶりもなく、自分の話を続けた。
「そんなことはいいじゃないですか。それよりもまだ元気になっていないですね。よおし、それならば。」
そう言って少年はかばんからまた一冊の本を取り出した。
【ユミの物語②】
そして案の定、その本には昨夜と同じようなタイトルか書かれていた。
少年は私に本を手渡すとまたウインク一つして「それじゃ、また明日」と昨日と同じセリフを残して消えようとした。
「ちょっと待って!」
昨夜とは逆に今度は私が少年の裾を掴んだ。
「あなたの目的が何なのか知らないけど、こんな本なんて私には必要ない。持って帰って!」
「でも、あなたはまだ泣いてるじゃないですか。」
泣いているからなんだと言うのか。過去を振り返り自分を顧みろとでも言いたいのか。ふざけるな。過去のせいで私が今どれだけ苦しめられているのか知らないくせに。
「過去をどれだけ振り返っても今の私には何の役にも立たないの!もう私に構わないでよ!私は1人で生きていけるんだから!!」
誰もいない夜の海に私の大声が響き渡る。
こだました自分の声を聞いて冷静さを取り戻した。
「ごめんなさい、大きな声を出して。でも本当に今の私には無意味なの。私ならもう大丈夫だから。」
少年は私の言葉にキョトンとした顔で首を傾げていた。
「あれ?それはおかしいな。あなた昨日『誰か私を助けて』って言ったでしょう?」
少年の言葉に心臓の鼓動が早くなる。確かに私は昨日誰かに助けて欲しいと願った。でもそれは心の中だけで決して声には出していないはずだ。
そんな私の心中を知っているのか、少年はこう続けた。
「いや『言った』じゃないな…『願った』が正しいかな。あなたは昨日助けてと願ったでしょう。」
私は少年の言葉に何も言い返すことが出来なかった。
私はいつも願っていたのだ。『誰か助けて』と。
少年は押し黙る私をジッと見つめると優しく微笑んだ。
「だから僕がここにいるんです。あなたを助けるために。あなたに物語を届けるために。それじゃ、これをちゃんと読んでおいてね。」
そう言って本をポンポンと叩いて、また暗闇へ消えていった。
私は少年から受け取った【ユミの物語②】をしばらく見つめたあと、一つ息を吐いてゆっくりとページをめくった。
(つづく)
※参考:BUMP OF CHICKEN プレゼント
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ゴールデンウィーク中に完結出来ればと思っております。
お休み中の暇つぶしになれば幸いです。
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