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【企画参加】ミサンガの太さは愛の深さ

僕が中学生の頃。
Jリーグが始まったせいもあって爆発的なサッカーブームがやってきた。

小学校からずっとサッカーが好きだった僕はこのミーハーなブームが大嫌いだった。
サッカーのこともろくに知らないくせに、ワーキャー言って本当にうざいなと思っていた。

そんなミーハーなサッカーブームの中で唯一僕がカッコいいと思ったのが、ミサンガだった。
編み込んだカラフルな紐を手首や足首に巻き、切れると願い事が叶うというアレだ。

それこそミーハー中のミーハーだと思うけど、僕はミサンガが気になって仕方なかった。
普段からミーハーなサッカーファンをバカにしていた僕は、自分からミサンガを付けたりすることはとても出来なかったし、ミーハーの王様であるミサンガをつけたい、なんて口が裂けても言えなかった。
つけたくてもつけらないジレンマから僕のミサンガへの秘めたる想いは日に日に大きくなっていった。

そんな頃、僕に人生初めての彼女が出来た。
ケイコちゃんという同じ年の大人しくて可愛い子だった。
彼女と言っても一緒に帰ったり夜電話をしたり、まだメールも無い時代だったから手紙を交換したりする、初々しいお付き合いだった。


その日も僕はケイコちゃんと一緒に帰っていた。
なんてことのない学校の話もケイコちゃんと一緒だと楽しくて、帰り道はあっという間ですぐにケイコちゃんの家の近くに着いてしまう。

本当はまだ話がしたいし一緒にいたいと思っていたけど、中学生のクソガキの僕は気の利いた言葉の一つも思い浮かばなかった。

「それじゃ、また」


そう言って立ち去ろうとした僕を珍しくケイコちゃんが引き留めた。

「来月誕生日でしょ。何か欲しい物ある?」


ケイコちゃんからそんな事を言ってもらえると思っていなかった僕は、嬉しくて口から心臓が飛び出るかと思った。

僕は迷った。
欲しい物ならたくさんあるけど、まさかケイコちゃんにゲームや新しい自転車なんて頼めるわけがない。

考えとくね、そう言いかけた僕の頭にあるモノが浮かんだ。

「ミサンガ…ミサンガがいいな」


変なプライドが邪魔をしてつけたくてもつけられなかったミサンガだけど、彼女からのプレゼントならそんなの関係ないと思った僕はケイコちゃんにそうお願いをした。
ケイコちゃんは嬉しそうな表情で「うん!」と言ってくれた。


その日から僕は自分の誕生日がくるのが指折り数えた。

ケイコちゃんからもらえるミサンガを毎日想像していた。
2色の糸を編み込んだシンプルなタイプだろうか?
それとも細身のシックなタイプだろうか?
細身のタイプなら2,3本お願いしちゃおうかな、なんてワクワクしながら待ち続けた。

そして迎えた誕生日当日。
その日も僕はケイコちゃんと一緒に下校していた。

他愛のない話をしながら帰り道を歩いていたけど、内心はドキドキが止まらなかった。

(今日ミサンガがもらえるんだ!)

頭の中はその事でいっぱいだった。

ケイコちゃんの家の近くに着いた時だった。

「あの…コレ…」

照れくさそうにケイコちゃんはラッピングされた小さな紙袋を僕に渡してくれた。

「ありがとう」とそう言って受け取ると、ケイコちゃんは「あんまり上手に作れなかったけど、一生懸命作ったから良かったらつけて!」と言い残し足早に去っていった。

ケイコちゃんの恥ずかしそうな顔、可愛いラッピングの紙袋、走り去るケイコちゃんの後姿、僕は胸がいっぱいでしばらくその場から動けなかった。

家に戻りドキドキしながら、ラッピングを外した。
中には透明な袋に包まれたミサンガが手紙と一緒に入っていた。
急いで袋からミサンガを取りだし、左手首に巻いてみた。

グリーンをベースにしたそのミサンガは差し色でイエローやオレンジ入っていて、とてもカッコ良く見えた。

ただめちゃくちゃ太かった。

その太さはリストバンドくらいで、当時流行っていた通常のミサンガと比べると5倍くらいの太さだった。
正直最初はミサンガかどうかも判別が難しいくらいだった。

もしかしてこれはミサンガじゃないのかもしれない。
そんな風に思った僕は、さっきまでの幸せのドキドキが不安のドキドキに変わるのを感じていた。

ミサンガと一緒にもらった手紙を読んだ。

「初めて作ったので上手にできなったけど、心を込めて作りました。サッカー頑張ってください。」

そこには丁寧な字でそう書かれていた。
胸のドキドキが不安から幸せにまた変わっていった。

ミサンガが太いとか細いとかそんなの関係なかった。
大切なのはケイコちゃんが僕のために一生懸命編んでくれたということだ。
太くたって良い、いやむしろその太さが愛の深さを物語っていると思った。

ミサンガの太さは愛の深さだ。

僕は迷うことなくケイコちゃんからもらったミサンガを左手に結んだ。

「あんたの左手のソレ何?(笑)」と小バカにする姉と大喧嘩したり、何か言いたそうな友人を「何も言うな。分かっている」とさとしたり、サッカーの試合で対戦相手から二度三度見くらいされたとしても、僕はミサンガをつけ続けた。
ご飯を食べる時もお風呂に入る時も寝る時も、片時もミサンガを外すことはなかった。

そんなミサンガとは裏腹にケイコちゃんとはだんだんと会わなくなっていった。
夏休みに入ってからはお互い部活や塾などで忙しくなり会えない日々が続き、徐々に連絡が少なくなっていった。

夏休みも中盤を過ぎるころには僕からもそしてケイコちゃんからも全く連絡をすることもなくなった。
俗にいう自然消滅というヤツだった。

夏休みの終わり頃、ケイコちゃんとは終わりを理解した僕はそっと左手のミサンガを外したのだった。
左腕のミサンガをつけていた部分だけが日焼けしておらず、やけに白い肌を情けなく思ったことを覚えている。


その後僕は新たにミサンガをつける事はなかった。
もちろんケイコちゃんと復縁することもなく卒業を迎えそして高校に進学した。

入学式が終わり教室に戻ると、違う中学の子からいきなり話しかけられた。

「ミサンガの人だよね?」

どうやらその子は中学の頃サッカー部に入っており、僕の中学と対戦をした時にあり得ないくらい太いミサンガをつけてる選手を見て、みんなでその選手に『ミサンガ』とあだ名をつけて呼んでいたとのことだった。

そして入学式に同じクラスにミサンガっぽい人がいたので、思わず声をかけてしまったというわけだった。

記憶からサッパリ消えていたケイコちゃんのことをまさかこんなカタチで思い出す事になるとは想像もしてなくて、やっぱりあの時のケイコちゃんの愛は深かったんだと改めて思った僕だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで、こちらの企画に参加させていただきました。

先日の記事で「編み物エピソードが全く思いつきません!(泣)」と言いましたが、どうしてもくまさんの企画に参加したくて、過去にミサンガの記事を書いたことを思い出して今回リライトさせていただきました。

※元記事はこちら

過去に読んでくださった方もいると思いますが、少し手直ししていますのでそれも楽しんでいただけたらと思います。

「いやミサンガは編み物じゃないだろ」というクレームは一切受け付けません。


SMILE SWITCHはこちら


それではまた。

コッシー

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