【今度は本当の「大丈夫」】
僕はお酒は嫌いじゃありませんが、実はあんまり強くなくすぐに酔っ払ってしまいます。逆に奥さんは大酒豪で呑もうと思えば海賊くらい呑みます。
大ジョッキ片手に「ゼハハ!」と笑う姿はまるで黒ひげのようですが、こんな風に言ってるのが奥さんにバレたらヤミヤミの実の能力で消されるので絶対に内緒にしててください。
そんな黒ひg…いや奥さんが先日珍しくベロンベロンに酔っぱらって帰宅しました。その日は奥さんの友人が結婚するとのことで、仲の良い友人達でお祝いの女子会を開いていました。
「ちょっと呑み過ぎちゃった」と帰宅した奥さんは千鳥足でフラフラとトイレに行くと吐いていました。しばらくトイレに籠っており心配になって見に行くと吐きっぱなしのままスース―と眠っていました。
これは相当呑んだなと思いながら、寝ている奥さんを起こしてベッドに連れていきました。そしてゲロまみれのトイレを掃除して僕も寝ました。
次の日、朝遅く起きてきた奥さんに「昨日は珍しくベロンベロンだったね」と声を掛けました。
「うん、ちょっとショックな事を言われたからつい呑み過ぎちゃった」そう言う奥さんの顔が少し曇りました。何があったのかを詳しく聞いたのですが、その内容に僕も大きなショックを受けました。
今回結婚される奥さんの友人は奥さんと同じ年の40代前半の方でした。昔から仲良くしてる方なので奥さんも喜んでいました。前日も仲の良い友人たちを集めて結婚のお祝いの呑み会をしていました。
その呑み会の席で少し酔った結婚される友人が子供に関してこんな事を言っていたそうです。
「子供は作らないと思う。だって障害を持つリスクが高いし、子供が可哀想だからね」
『子供が可哀想』、この言葉に奥さんはとても大きなショックを受けたそうです。
ご存知の方もいると思いますが、うちの息子には知的障害があります。今8歳の息子は言葉を上手く話すことが出来ませんし、運動や勉強なども同年代の子供たちより成長の遅れが見られます。
その友人は決して悪気があったわけではないと思いますし、まさか直接奥さんに向けて言ったわけではないと思います。
ただ奥さんは相当大きなショックを受けたと思いました。最近ではあまり表には出しませんが、昔は息子の障害について奥さんは強く責任を感じていたことがありました。
あれは5年ほど前のことでしょうか。息子が通う予定の保育園から「障がい者の認定を受ければ手厚く息子さんを見ることができます。」と言われ障害者手帳を作った時のことです。
市から発行された手帳には『判定A』と書かれていました。A判定は最も重い判定であり、そこまで重度の障害だとは思っていなかった僕らはその判定にとても動揺しました。
判定を受けた日の夜でした。普段何が合っても絶対に謝らない奥さんから謝罪をされました。
「ごめん…私がちゃんと産んであげられなくて…本当にごめん」
そう言う奥さんの目には涙が溜まっていました。
「大丈夫だよ…ママのせいじゃないから」
そんな風に奥さんには言いましたが、きっとこの時の僕の「大丈夫」は全然大丈夫じゃなかったと思います。息子の障害について1番悩んでいた時期で僕の言葉には何の説得力もありませんでしたし、奥さんを支えてあげることもできませんでした。
以前の記事でも書きましたが、そんな僕らを救ってくれたのは放課後デイの職員さんから言われた言葉でした。
「重度の知的障害を持つ方はある意味幸せだと思います。国の支援体制は充実していますし、何より本人が自分の状況を全く悲観していません。親御さんは将来を憂い不安に思うかもしれませんが、本人は気にもしていません。
息子さんも自分が話せない事に対して悲しんだり苦しんだりされていませんよね。だから親としては息子さんが笑顔になれる事を考えるのが1番だと思います。親御さんが不安だとそれこそ息子さんが悲しみますよ。」
この言葉に本当に心が楽になりました。現状を受け入れ自然体に暮らすことができています。
あれから奥さんから「ちゃんと産んであげられなくてごめん」と言われたことはありません。でもおそらく心のどこかではその気持ちは持っていると思います。
そんな奥さんに「障害を持つ子が可哀想」という言葉はやはり相当なショックで大酒豪の奥さんでもベロンベロンに酔っ払うほど飲み過ぎたんだと思います。
「二日酔いで頭が痛いからまだ寝るね」
前日の事をひとしきり話し終えると奥さんはまたベッドに戻っていきました。ベッドに戻る奥さんの後を息子がいそいそとついていきました。
そしてこちらに背中を向けて横になる奥さんを優しくトントンしながら「寝んね、寝んね」と言いました。
「寝んね」は息子の最近のお気に入りワードです。就寝する時に僕や奥さんをトントンしながら言ってくれます。
心なしか息子にトントンされいる奥さんの身体が揺れているような気がします。もしかしたら泣いているのかもしれません。
息子は言葉を上手く話すことができません。成長に遅れがあり同年代の子が普通にできることもできないことが多くあります。
でも僕は息子を全く可哀想だとは思いません。少なくとも苦しむ母親に寄り添える優しい子に育ってくれています。自慢の大好きな愛する息子です。
そんな息子を産んでくれた、僕に会わせてくれた奥さんには心から感謝しています。謝ることなんて一つもないと思っています。
「気にしてなくて大丈夫だと思うよ」
背中を向けて横になっている奥さんにそう声を掛けました。今度の「大丈夫」はあの時と違って本当に大丈夫な大丈夫だと思います。
「分かってるって」
こちらを見ないまま答える奥さんでしたが、その声に悲しみは含まれていませんでした。
息子は可哀想じゃないし奥さんは責任を感じる必要はなく、僕ら家族はこの先もきっと大丈夫です。何の問題もないと思います。
ただ1個だけ大丈夫じゃないことがありました。
「でもゲロまみれのトイレを掃除するのは大丈夫じゃないから。これからは勘弁してね(笑)」
「おまえ!!」
二日酔いが嘘のようにベッドから跳ね起きた奥さんから肩パンチを食らいました。それを見て息子はキャッキャと笑っていました。
笑う息子を見て二人で笑いました。殴られた肩はジンジンするけど多分大丈夫だと思います。
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