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2022 天皇杯 決勝戦 サンフレッチェ広島戦 観戦記(後編)

 前編からのつづきです。

4.雑感(2)

 後半、広島は2枚替えを行い、エゼキエウ選手とベンカリファ選手を投入しました。前半1トップに入ったドウグラスヴィエイラ選手はどっしりと構えるタイプだったが、交代で入ったベンカリファ選手はサイドに流れたりと変化をつけてきました。このようなキャラクターの違いもあるためなのか、後半の広島は裏へ走り込んだり、選手が流動的に動く回数が増えていきました。甲府としてはポジションを崩して攻める広島に対して戸惑う場面もありましたが、最後は体を張って守ることができました。また、押し込む広島の裏のスペースを狙ってカウンターを仕掛け、チャンスになりかけるシーンを何度か作ることができました。しかし、強度を上げる交代ができる広島に対して甲府は今の強度を維持するのが精一杯となっていたため広島に押し込まれ、ラインも下がってしまいます。それでも耐えていましたが後半39分に川村選手に強烈なシュートを決められ、振り出しに戻されます。その後は一進一退の攻防が続きましたが決着が付かず延長戦となりました。

延長戦前に円陣を組むヴァンフォーレ甲府の選手・スタッフ達

 延長戦に入り広島はベンカリファ選手、ソティリウ選手、そして3バックの一角に入っていた塩谷選手を前線に上げ、高さのある3トップとなりました。広島はパワーを増強して攻勢を強めましたが、甲府も体を張って守ります。
 延長後半に入っても広島が押し込む展開が続き、フィールドプレイヤー全員が甲府陣内に入ってプレーする時間も増えていきました。延長戦でも決着が付かずPK戦で決着をつけることになりました。両チームとも足をつる選手が出る死闘の中、延長後半7分、足を痛めた山田選手に替わり、甲府在籍20年目の山本選手がピッチに入ります。しかしその4分後、その山本選手がハンドをとられ、PKを与えてしまいます。絶体絶命のピンチでしたが満田選手が蹴ったボールを河田選手が止め、希望を繋ぎます。河田選手が止めた瞬間、スタンドが生き返ったかのように湧き上がりました。甲府はその後の攻撃も耐え、勝負の行方をPK戦に持ち込みます。

 そしてPK戦となりました。両チームとも3人目まで成功し、迎えた広島の4人目でした。同点ゴールをあげた川村選手が蹴ったボールを河田選手がセーブします。今日2つ目のPKセーブにスタンドも湧き上がります。石川選手、満田選手が決め、ここで決めたら甲府の勝利という場面で甲府の5人目はクラブのバンディエラ・山本選手。ゴール左上隅に蹴ったボールはネットに吸い込まれ、120分を越える死闘は甲府の勝利で幕を下ろしました。消滅危機や様々な紆余曲折を経て、三大タイトルの一つである天皇杯という栄光にたどり着くことができました。
 長年クラブを支えた山本選手が投入された直後にPKを与えてしまい、しかし、それを河田選手が止め、迎えたPK戦の優勝がかかる場面で山本選手が決め、クラブ初タイトルを獲るというまるで映画のような展開となりました。事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、どんな優れた脚本家でもここまでの展開は描けなかったのではないかと思いました。

5.試合後

 5人目のキッカーを務めた山本選手が左上に決めると、ゴール裏からは溢れんばかりの歓声が沸き起こりました。中には泣いているサポーターもいて、私の前に座っていた方は泣き崩れていました。気づいたら私も目に涙を浮かべていました。2016年のアウェイ福岡戦(ドゥドゥ選手が膝を痛めながら決めた試合)以来、ヴァンフォーレ甲府の試合で泣きました。

 その後、荒木キャプテンや吉田監督、この試合の立役者である河田選手や山本選手のインタビューが行われました。特に山本選手のインタビューが印象に残りました。このクラブで苦楽を味わってきたレジェンドにタイトルをプレゼントすることができて本当に良かったなと思いました。
 インタビューの後は表彰式に移りました。表彰式では日本サッカー界の重鎮とも呼べるような方々から賞金などが授与されました。なかでも日本サッカー協会名誉総裁である高円宮妃殿下久子さまから山本選手へ天皇杯が授与されたシーンはグッときました。皇族の方の前でヴァンフォーレ甲府が試合をするというだけでも名誉なことだと思いますが、まさか天皇杯を授与されるなんて夢のような気分でした。そして賜杯を山本選手が掲げました!!最高の瞬間でした!!

賜杯を掲げた瞬間

 さらに先制点を決めた三平選手が賜杯を掲げるとみせかけてゴールパフォーマンスをするボケを披露すると全員がずっこけるという場面もあり、会場は大いに盛り上がりました。最後は選手・スタッフ・関係者で記念撮影をしました。

 そしてゴール裏へ向かい、一緒に喜びを分かち合いました。私の席からは選手の表情などは遠くて分からなかったですが、サポーターと選手やスタッフが一体となって喜びを分かち合う最高の瞬間でした。

サポーターと喜びを分かち合う選手達

 選手が撤収した頃には空は完全に暗くなっていました。まだまだ余韻に浸っていたいところでしたが帰りの電車もあるので日産スタジアムを後にしました。

余韻が冷めない日産スタジアム

 帰りも同様に徒歩で新横浜駅まで向かいました。新横浜駅に着いて、改札前がめちゃくちゃ混んでいて、横浜線も満員電車でしたがなんとか帰ることができました。

来年もこの舞台に立ちたい

6.あとがき

 PK戦の末、広島を倒し天皇杯を優勝することができました。J2勢の優勝としては2011年のFC東京以来でしたが、そのFC東京は決勝で同じくJ2だった京都を倒してとのことだったので、J2のチームがJ1のチームを倒して優勝する「下克上優勝」は甲府が初めてであり、102回の天皇杯の歴史の中に確かに甲府の名が刻まれたといってもいいと思います。甲府が天皇杯を勝ち進む中で「まさか」と思っていたので、ほんとに優勝してしまったことが未だに信じられず、夢の中にいるのかなという気分です。だが、テレビのニュースや新聞などで甲府が取り上げられているのをみると、本当に優勝したんだな~と感慨深い気持ちになりました。
 また、この優勝はヴァンフォーレ甲府の選手、スタッフ、フロントの職員、サポーター、そして80万の山梨県民が一体となったからこそつかむことができた優勝だと思いました。私はゴール裏(声出し不可)のメインスタンド寄りの端で観戦していましたが、ゴール裏だけではなく、甲府側のメインスタンドに座っている多くの方が甲府の応援に合わせて手拍子をしていて、私はかれこれ10年くらい甲府を応援していますが10年の中で一番一体感が感じられた素晴らしい応援だったと思いました。このように小さな県の小さなクラブであったとしてもそこに関わっている方が一体となって戦えば、鹿島や広島といった予算規模やクラブの施設や選手層などで太刀打ちできないような相手であったとしても乗り越えられ、天皇杯といった素晴らしい栄光を手にすることができるのだなということを確認することができました。諦めずに必死になって全力で物事に取り組めば、どんな難題や困難が押し寄せようとも必ず乗り越えられ、夢を叶えることができるということをヴァンフォーレ甲府から教わったような気がしました。個人的に非常に勇気をもらった一戦となりました。

 私はJ2を優勝した2012年から本格的に応援するようになり、今年で11年目となりますが、こんなに早く3大タイトルの一つを取ることができるとは思いませんでした。多分一生のうち一回くらいかなと思っていたので本当に驚きました。この日は自分の人生の中で一生忘れられない一日になりましたし、ヴァンフォーレ甲府のサポーターでよかったと心の底から思えるような一日でした。それと同時に、もっとヴァンフォーレ甲府でこのような喜びを味わいたいなと思いました。天皇杯優勝はゴールではなく、そこから先に延々と物語は続いていくと思うので、その続きを一緒に歩みたいなと思います。
 そして、来年クラブは初のアジアの舞台に挑戦します。ヴァンフォーレ甲府の価値をさらに上げるチャンスですので、出られるという誇りを胸に頑張ってほしいなと思います。私もまだ見たことがない景色を一緒に見るためにアジアに遠征したいなと思いました。それに伴って、スタジアムの問題だったりACLとリーグ戦を両立させなければならないといった新たな問題が発生しますが、この試合でヴァンフォーレ甲府はどんな困難があっても乗り越えられると確信したので、きっと乗り越えられるのではないかと思います。

 しかし、ヴァンフォーレ甲府の今年の戦いはこれで終わりではありません。まだリーグ戦が2試合残っています。そのリーグ戦は目下7連敗中なので、天皇杯の余韻も冷めない中での連戦となりますが、最後の2試合2連勝して締めたいですね。また、先日吉田達磨監督の退任が発表されました。天皇杯優勝といった功績を甲府にもたらしてくれた指揮官を気持ちよく送り出すためにリーグ戦も勝ちたいです。

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