年中無休note

子育て1コマ漫画エッセイ『年中無休』 no.03『「わからずや!」と、怒鳴り飛ばしたくなった時の話』

子どもが生まれると、子ども中心に生活がまわりはじめ、朝型になった。生まれる前は夜型。深夜2時ごろ就寝。そして朝は、起きたい時に起きていた。今は、21時半頃に子どもと一緒に寝て、4時頃起床。暗闇の中小さく明かりを灯して子どもが起きてくるまでに朝食を済ませ、仕事をしている。

ふりかえると、子どもが2歳半を過ぎたぐらいまでは、授乳やオムツ替えで、睡眠は細切れだった。食事もトイレも自分のペースでできず、お風呂をシャワーだけでサッと済ますことも多かった。

妊婦時代、「外食しておいた方がいいよ。ゆっくり外食できなくなるから」という先輩ママさんからのお言葉を少し流し気味に聞いていたが、ホントそうだとわかった。こんなにも食事の時間って大変だったけ?と思う日々で、カリッと焼けたトースト1枚を温かいまま食べきれただけで涙が出るほど幸せに感じたこともあった。子どもにお乳を飲ませながら食事したり、ハイハイで動き回る子どもを茶碗片手に追いかけ、離乳食を口に運んだり…。

20歳頃、井の頭線のある駅の改札に向って歩いていた。すると、私の前に小学校中学年くらいの少女とその母親がおり、突然母親が叫んだ。「あんたのせいで私の人生めちゃくちゃよ!」。その声の大きさと内容にびっくりした。ハッとして姿を目で追ったが、もう二人は人ごみの中にあっという間に消えていた。彼女らの表情は、私がふたりの後ろにいたこともあり、見えなかった。私は、母親から衝撃的な言葉を浴びせかけられた少女のことを思った。あんなことを言われて、深く傷ついただろうな…。

あれから十数年。育児をはじめてみて、その叫んだ母親に対する気持ちが変わった。以前は、なんて鬼のようなひどい母親なんだろう、とだけ思っていた。だが、そんな気持ちに加え、その母親がなぜそんな事を口走るにいたったかに思いを巡らすようになった。誰も好んで我が子を怒鳴ったり、傷つくような言葉を叫びたくはないだろう。彼女にそうさせてしまった原因は何だったのだろうか。

私は、寝不足や病気で弱っている時、時間に追われて家事をしている時など、子どもへの対応が、雑になる…。子どもへ手をあげたことはないが、ついつい声や言葉選びにトゲがたってしまう。自分では、子どもが心に大きな痛手を負うような言葉は言っていないと思うのだが、もしかしたら気がつかないうちにトゲがある言葉以上の刃物的な言葉を口走っていたこともあるかもしれない…。

ある日、こんなことがあった。もう保育園の登園時間ギリギリで時間がないというのに、子どもが自転車じゃなくて歩いて行きたいと駐輪場でゴネた。泣き叫び、何度も時間がないからダメと説明しもわかってもらえない。もう「わからずや!」と、怒鳴り飛ばしたくなった。育児書などでは、子どもがぐずっている場合、まず子どもの言い分を丁寧に聞いて『〇〇したかったんだねぇ』と気持ちに寄り添い、泣き止んで落ち着いた後、なぜそれがダメだったかを優しく説明する、とある。だが、朝のバタバタの時間帯そんな悠長なことはやってられない…。

子どもが大泣きを続け、そのきかんぼうっぷりに、私はイライラがクレッシェンドしていた。もう、プチンッとキレそうになった時だ。近所のマンションを掃除しているお姉さんが「どうしたの?」とやって来た。お姉さんの名前は知らないが、通園途中にあいさつを交わす仲。「何歳だっけ?」と子どもに優しく話しかける。子どもは、べそをかきながら指で『3』。「はい、どうぞ」と、お姉さんはキャンディのように左右がねじってラッピングされてある、かわいらしいチョコを3つくれた。子どもはすっかり機嫌が良くなり、さっきまでの嵐はどこへやら。保育園が終わったらお家で食べようね~♪と約束しながら、私は自転車でルンルン風をきって走った。

毎日心は綱渡りだ。お姉さんの優しさに救われた朝だった。


<NEWS>


「1コマ漫画2人展」2018.5.20(日)~25(金)

はまのゆか&早川乃梨子がお贈りするクスッと笑える子どもをテーマにした1コマ漫画の原画展。原宿のSEE MORE GLASSにて。>>詳細


発行・一コマ漫画・テキスト・編集・ はまのゆか 2018年5月7日

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