軍師お父さん①

「それはそういうものだから」
コーチは少し動揺しながら、そう言って僕たちを説得する。いつものことだ。逆らえば怒られることもあるし、逆らうことで話が長くなるのが面倒だから僕は何も言わない。本当は違和感を感じているが
「何か意見をするときは、自分の意見も言いなさい」
と学校で習っているため、意見が固まっていない僕は意見することはない。

 僕は小学校5年生。野球は2年生の途中から習っている。野球を始めたきっかけは、父だ。父は大の野球好きで我が家ではいつもテレビからプロ野球が流れていた。
「ただいま〜」
疲れながらも気丈に振る舞う声が聞こえた。
父は、家に帰ってき入浴を済ませるとすぐに食卓につき、チャンネルを変え、プロ野球を見始める。
「今アニメいいところだったのに」
と最初のうちは反抗した。野球のルールもよく分かっていない僕にとっては、野球なんて全く面白くない。そこで父は
「会社で頑張ってきたんだから、好きなもの見させてくれよ」
と正攻法で攻めるのではなく
「ほら、見てごらん、このピッチャーはな…」
と野球の魅力を伝えるという形で攻めてきた。まだ幼い僕は、これが父が野球を見たいがための罠だと分かるはずもなく、父が解説する野球が好きになっていった。気付けば阪神タイガースの帽子を被り、テレビで放送される阪神の試合に夢中になっていった。
「甲子園の試合は他の試合と比べて応援が大きいなぁ」
そんな僕が少年野球を始めるのは自然の流れだろう。

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