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腸内細菌と秘密結社の話(ニューギニア高地のクマ族と体の中の水の話 5)

本日のBGM The Reverend Shawn Amos - Diggin' My Potatoes

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ニューギニア島の保健体育と栄養バランスのお話です。

ニューギニア高地の部族の一つ、クマ族の少年たちは10歳前後になりますと通過儀礼(イニシエーション)を迎えまして、その中で 生涯にわたって女性に口外できない様々な体験を経て かつての帰属グループだった女性たちから引き離され、一方で通過儀礼という秘密を共有したことで男性グループに新たに加わることになります。

秘密の共有というのはグループの結束を高めるには有効な手段で、その内容が過激であり、他人とは共有できないものであるほど、その秘密を共有するグループの親密度は強くなります。秘密結社や過激な思想の団体ほど結束が強いというやつですね。

だから民俗学者たちもこう言った部族の儀礼に立ち会うのは難しくて、秘匿にされているからこそ神性が保たれるわけですから 当然部外者に見学させたりはしません。だから民俗学者たちは彼らに認めてもらえるよう 長い時間をかけて調査に取り組む必要があります。

つまり通過儀礼は少年たちの居場所を女性のグループから取り上げて、男性のグループに強制加入させるという機能を持っていて、儀礼の内容はショッキングなものほど有効で、不可逆性も大事になります。「もうこれを経験した以上お前は元には戻れないぞ」っていう。


ニューギニアの各部族社会において、男性身体というのは自然には成長しづらいという観念がありましたが、その要因として乳児期から少年期において、女性から与えられる栄養や 親密な関係性が男性身体の成長を阻んでいるとニューギニアの各社会では考えられています。

そのために有効な手段として考えられているのが少年の体の中から女性性を取り除くことであり、具体的な方法としては瀉血や吐瀉、強制的な発汗などが一般的だそうで、これらの体験も通過儀礼の中に含まれます。その観念の延長として、婚前交渉の禁忌に至るわけですね。

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実際のところ男性身体が成長しづらいというのは本当のことで、男性が女性に比べて遺伝子的に虚弱であるということに加え、ニューギニアの高地に住む人たちの主食がサツマイモであるというのも身体成長が難しい要因でもあります。サツマイモって炭水化物だから 筋肉なんかの材料になるタンパク質をあまり食べることができないんですね。

動物性タンパク質はお祭りなんかでたまに食べることのできる豚だけで、日々のタンパク質摂取量は日本人平均の半分程度である30~50グラムしかなく、それは栄養学が提唱する必要量ギリギリか、不足しているくらいです。

にもかかわらずニューギニア高地の男たちはムキムキなわけで、これは辻褄が合いませんわね。どうなっているのかしら。


このタンパク質の不足と現地の人の筋肉量のアンバランスさというのは昔から問題にされてきたみたいで、まず可能性として持ち上がったのは腸内細菌が固定する空中窒素が人間のタンパク源になっている、ということです。

これどういうことかと言いますと、自然界でマメ科の植物が、窒素化合物を生産してくれる「根粒菌」という細菌を根っこにあるコブ(根粒:こんりゅう)の中に住まわせていて、その根粒菌が土の栄養を豊かにして その栄養で豆が成長するというケースがありまして、

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これの何がすごいんだと言いますと、植物の栄養は本来であれば土の中の様々な菌や動植物の循環を経てようやく栄養となるものが手に入っているのに対し、根粒菌による窒素固定は空気の中から栄養を取り出せちゃうからめちゃくちゃサイクルが早いんですね。なのでマメ科の植物は他の植物が生きていけないような環境でも群生していたりするわけで、

要約するとニューギニア高地人が腸内に飼っている何らかの細菌のおかげで彼らはムキムキになっているのかもしれないという事です。

このことは半世紀以上前から予想はされていたものの今まで明確に実証されたことはなかったのですが、21世紀になると腸内細菌の培養がカンタンになり、研究もめちゃくちゃ進みまして、

例えば肥満の人の腸内細菌をマウスの腸内に移植するとそのマウスは太りやすかったり、クワシオルコルという栄養障害の症状が出ている子供の腸内細菌をマウスに移すと同様の症状を示すようになったりと、腸内細菌が その生き物の栄養摂取に何らかの役割を持っているかもしれない ということがわかってきたそうです。

ということはやっぱりニューギニア高地の人々は特別な腸内細菌を持っていて、その腸内細菌によってタンパク源を得ているかもしれない、という研究をされている方がおられまして、「味の素 食の文化センター」の記事のリンクをこちらに貼り付けておきます。

↑上の文で、栄養の話からはこの記事の内容を省略して書いてあるだけですので、元の記事↓は より詳しい内容になっております。

https://www.syokubunka.or.jp/column/vesta-columns/post014.html


詰まるところ、世界中の至る所に人間は住んでいるわけですが、どの土地においても過剰に余る栄養、不足する栄養というのがあって、それらの過不足を補う形でそれぞれの土地に住む人の腸内細菌がバランサーとして機能して、我々は土地ごとの食文化の中で知らないうちにベストな腸内細菌を育んできて、共生関係にあったのかもしれないということなんです。

なので季節ごとの土地のものを食べるのは やっぱり健康にいいということなんじゃないでしょうか。ってんで写真をのっけていた つくしと 高菜と ふきのとうでした。腸活は育菌の時代だそうです。あいや。

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ニューギニアの保健体育の方はまた続きます!

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高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目








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