00 得意魔法はブス隠し!私の名前は幸男探子
どうしたら、素敵な男の人とお付き合いできるのでしょうか。
これから、私がある人に教わった方法を、お伝えしていきます。
彼氏探し中の、さぐ子と一緒に、考えていきましょう。
鏡の前でルンルンルン♪
私が手にしているのは、ブスを隠せる魔法の道具たち。
今日も、この特別な粉や液体、色で、
私をいたいけのある少女に変身させてくれるわ。
まだ、おばさんではないけれど。
きっと、すぐおばさんになってしまうのは、感覚的にわかっている。
魔法のかかった鏡の前で、「今日も私は可愛いから大丈夫!」
そう言って家を出た。
向かった先は、近所にある林。
だって、最近占いに、『心を休めるのには自然に触れると良いでしょう。』って言われたんだもの。
私は、彼氏がいない。
1年前くらいにはいたんだけど、なんか本当に私のことが好きなのか、不安になって。
そのまま別れちゃった。
自然の力が、私に新しい恋を引き寄せること、疲れた心を休めることを期待しながら、木陰を踏んでいく。
木の匂いと、緑の隙間から差し込む暖かい光、そよそよと清涼感のある空気が、身にしみる。
私はこの林に、歓迎されているようだった。
忘れよう、今だけは。
努力しても何も変わらない、この現実を。
きっと、『こんなもん』『みんなこんなもん』で進んでいくであろう人生を忘れて、今だけは林のプリンセスになりましょう。
そう思いながら私は、小鳥の声がする方へ進んでいった。
小鳥たちに合わせながら、口を弾ませる。
「~♪らりらるら♪ 私はさぐ子よらりらルラ♪
この林のお姫様! 動物たちと、仲良しよ♪
姫といっても庶民姫♪普通に寄り添う優しい子♪
いつかはきっと、らりらるら♪
幸せになるのよらりらるら♪
そのためには年収〇〇〇万の、らりらルラ♪
健康平和、らりらルラ♪
顔は普通で身長170センチのらりらるら~♪」
そこに、ぴょこんと、白くて小さなウサギの後ろ姿が、切り株からでてきた。
「まぁ、なんてかわいいうさぎさんでしょう!」
愉快精神発動中の私は、
林姫の世界観が、体中にきちんと教育されていた。
(もう、恥など捨ててしまえ! I am woods prinsece!)
そう思い、目の前のウサギに語りかける。
「こんにちは、ウサギさん。ここは、素敵な場所ね。私、もっと素敵な場所を、この林の中でみつけたいわ。どこかに、案内してくれる?」
(まぁ.....ただのひとり言になっちゃうんだけどね。)
するとウサギは、真ん丸黒目の愛らしい顔を、こちらに向ける。
「こんにちは。 あなたはどちら様ですか?
まぁ、どちら様でも構いませんが、私でよければご案内します。」
(..............。)
(......................ウサギが、しゃべった。)
私が驚きのあまり硬直している間に、ウサギは、ぴょんぴょこ、前へ進む。
「どうしました?こちらですよ。」
「あ......はい。」
そうして私はウサギの後を多い、自然の中に深く入っていった。
到着したウサギの家は、おとぎ話に出てきそうな木の家だった。
屋根の色はオレンジ、庭には小さいながらも畑があった。
そして私は今、部屋の中にある椅子に座っている。
机の上には、競馬の紙、たばこの吸い殻が入った灰皿、飲みかけの缶チューハイキャベツ味、やきそばカップ麺キャロット味。
私は予想外の生活品に、うさぎになったかのように目を丸くした。
白いウサギは、二足歩行でキッチンから皿を持ってきた。
皿に敷き詰められていたのは、輪切りにされた乾燥ニンジンだった。
そして、その皿を、机の上にドン!と、置く。
「ほら、食いな。」
そしてウサギは私の正面にある椅子に座り、たばこに火をつけ、煙を吸い始めた。
(あれ.......なんか、怖くない?)
私の頭に存在していたうさぎの印象とはとても違っていて、その差に驚きながらも「い......ただきます。」、
キャロットチップスを手に取り、かじった。
(青くさ....味がない)
「お前、何が案内してくれる?だよ。モノ頼む言い方あるんじゃねーの。」
(え.....コワ)
「なあ?」
足を組み、煙を吐くウサギ。
「あ......はい、その通りです。すみません」
(うさぎって、こんなに威圧感のある動物だっけ。なんかこう、もっと、ふわふわで癒し系のような......)
「で、お前。何悩んでるんだよ。」
「はい?」
「何に悩んでいるのかって、聞いてるの。
お前、若いくせに暗い顔してたから、失礼なヤツでも、あたしは付き合ってやろうと思ったんだよ。」
「それは....、ご心配、ありがとうございます。」
「暗い若者がいたら心配になるだろうが。いってみろよ。」
私は目の前のうさぎのペースに流され、
林のお姫様の威厳は完全に消え去った。
「あのですね.........わたし、今は、彼氏がいなくて悩んでます。」
「ふーん。男かよ。男、なんでほしいんだよ。」
「えっ、何で.......うーん、ーやっぱり、気持ちを共有したり、一緒にどこか出かけたり、寂しくないようにするため.....ですかね。」
「そうか。前の男は、どんなやつだったんだ?」
「えっと、あの〇〇大学卒で、職業は公務員で、お金持ってて、実家もしっかりしてて、顔は上の下くらいで、身長は170センチくらいの、荷物持ってくれる優しい彼氏でした。」
私は、たまっていたものを吐き出すかのように、元彼について話し始めた。
「前の彼氏は、一緒にいるととっても楽しいんです。お互い素でいられるし、大好きでした。
けど、なんていうか、彼って本当に私のことを好きなのかなって、不安になっちゃったんですよね。あんまりにも、意思表示がなくて。
でも、親や周りの友達は、彼のこと、あんないい人いないよ!とか、
さぐ子の我慢が足りないんじゃないの?とか、
あの人となら将来お金に困ることは絶対ないよ、学歴も、家柄もいいんだから.....とか。
何を言っても、私の我慢が足りないって、いわれてるようで.....お金が大切なこと、みんなのいってることが、わからなくないんですけど、
............なんか、納得できなくて。」
ウサギは、たばこを吸い終え、灰皿にジュッとたばこを押し付けた。
そのしぐさは、ウサギの可愛らしい顔からはかけ離れているが、とても馴染んでいた。
「なるほどな。
お前........あたしと似てんなぁ。」
(え?私そんな不良にみえるのかなぁ?)
「お前、名前はなんていうんだ?」
「あ、さぐ子です。幸男探子です。」
「わかった。さぐ子。さぐ子に、とっておきを教えてやる。
あたしの名前はラビ子。よろしくな。」
(名前、めっちゃテキトーじゃん。)
「さぐ子。さぐ子が、自分自身できちんと納得できる男に出会うのを、あたしが手伝ってやる。これも、何かの縁だ。
まぁ、いつ見つかるかはわからないが、ここは大人として、悩める若者を導いてやる。」
たしか、ラビ子さんは、そういってくれた気がした。
なぜ、たしか、なのか。
それは、私はなぜかここで眠くなってしまい、気を落としたためだった。
おわり
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