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118C69,118C70,118C71

次の文により69、70、71の問いに答えよ。
 72 歳の女性。物忘れのため心配した夫に伴われて来院した。
現病歴 : 1 年前から、時折、財布の中にある金額があわないと訴えることがあった。半年前から「家に知らない子どもが遊びに来ているが、挨拶をしてくれない」という発言を繰り返すようになった。物忘れが徐々に悪化するため受診した。気分の落ち込みはなく、趣味のガーデニングは楽しめている。睡眠障害と睡眠中の行動異常を認めない。夫によると、知らない子どもが家に遊びに来たことはないという。
既往歴 : 25 歳時に異所性妊娠で手術。
生活歴 : 喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。夫と同居。車で 30 分の距離に長女夫婦が住んでいる。
家族歴 : 父親は肺炎、母親は脳梗塞で死亡。
現 症 : 意識は清明。意思疎通は可能で、礼節は保たれている。身長 157 cm、体重 52 kg。体温 36.2℃。脈拍 88/分、整。血圧 132/76 mmHg。呼吸数 12/分。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部に異常を認めない。歩行は前傾姿勢で、歩幅はやや小刻みである。脳神経系に異常を認めない。四肢筋力は正常だが、四肢に歯車様筋強剛を認める。腱反射は正常で、運動失調、感覚障害を認めない。
検査所見 : 尿所見:蛋白(-)、糖(-)。血液所見:赤血球 438 万、Hb 13.2 g/dL、Ht 40%、白血球 5,800、血小板 18 万。血液生化学所見:AST 26 U/L、ALT 18 U/L、LD 162 U/L(基準 124~222)、γ-GT 16 U/L(基準 9~32)、アンモニア 22μg/dL(基準 18~48)、尿素窒素 16 mg/dL、クレアチニン 0.7 mg/dL、血糖 96 mg/dL、Na 142 mEq/L、K 4.2 mEq/L、Cl 98 mEq/L。CRP 0.1 mg/dL。頭部単純 MRI では大脳皮質の萎縮を認める。

第118回医師国家試験

118C69

この患者に行う検査で最も適切なのはどれか。
a  Rorschach テスト
b  標準型失語症検査〈SLTA〉
c  改訂長谷川式簡易知能評価スケール
d  日本版 Denver 式発達スクリーニング検査
e  Hamilton うつ病評価尺度〈Hamilton Rating Scale for Depression〉

第118回医師国家試験

正解:c

解説

本症例は、72歳女性の認知機能障害が疑われる患者である。
1年前からの物忘れ、半年前からの幻視(知らない子どもが遊びに来ているという発言)を認める。頭部単純MRIでは大脳皮質の萎縮を認めている。
これらの所見から、認知症が疑われる。
認知症の評価には、改訂長谷川式簡易知能評価スケールが広く用いられている。
改訂長谷川式簡易知能評価スケールは、時間の見当識、場所の見当識、即時記憶、計算、遅延再生などの項目から構成される簡易な検査である。
認知機能障害の有無やその重症度を評価することができる。

a. Rorschach テスト
Rorschachテストは、インクの染みの形から連想するものを答えてもらう投影法の心理検査である。性格検査の一種であり、神経症性障害、統合失調症、躁うつ病に用いる。

b. 標準型失語症検査〈SLTA〉
標準型失語症検査は、失語症の種類や重症度を評価するための検査である。
本症例では失語症を疑う所見はなく、標準型失語症検査は適切ではない。

c. 改訂長谷川式簡易知能評価スケール
改訂長谷川式簡易知能評価スケールは、認知機能障害の評価に用いられる簡易な検査である。時間の見当識、場所の見当識、即時記憶、計算、遅延再生などの項目から構成される。
本症例では、物忘れや幻視などの認知機能障害が疑われるため、改訂長谷川式簡易知能評価スケールが適切である。

d. 日本版 Denver 式発達スクリーニング検査
日本版Denver式発達スクリーニング検査は、乳幼児の発達評価に用いられる検査である。
本症例は高齢者であり、日本版Denver式発達スクリーニング検査は適切ではない。

e. Hamilton うつ病評価尺度〈Hamilton Rating Scale for Depression〉
Hamiltonうつ病評価尺度は、うつ病の重症度を評価するための検査である。実施者(医師)が記入する評価尺度である。

118C70

この患者に適切な薬剤はどれか。
a  ドネペジル
b  メラトニン
c  クロナゼパム
d  パロキセチン
e  ハロペリドール

第118回医師国家試験

正解:a

解説

本症例は、72歳女性の認知機能障害である。
物忘れ、幻視、大脳皮質の萎縮などの所見から、アルツハイマー型認知症が疑われる。
アルツハイマー型認知症の治療には、コリンエステラーゼ阻害薬が第一選択となる。コリンエステラーゼ阻害薬には、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなどがある。
これらの薬剤は、アセチルコリンの分解を抑制し、認知機能の改善を図る。

a. ドネペジル
ドネペジルは、アルツハイマー型認知症の治療薬である。
コリンエステラーゼ阻害作用により、アセチルコリンの分解を抑制し、認知機能の改善を図る。
本症例では、アルツハイマー型認知症が疑われ、ドネペジルが適切な薬剤である。

b. メラトニン
メラトニンは、睡眠障害の改善に用いられる薬剤である。

c. クロナゼパム
クロナゼパムは、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬である。

d. パロキセチン
パロキセチンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の抗うつ薬である。

e. ハロペリドール
ハロペリドールは、定型抗精神病薬である。
統合失調症や精神病性障害の治療に用いられる。

118C71

この患者の今後について、アドバンス・ケア・プランニング〈ACP〉を行う方針となった。
 誤っているのはどれか。
a  多職種で支援する。
b  患者より夫の意向を優先する。
c  話し合った内容を記録に残す。
d  患者が話しやすい環境を整える。
e  患者の意思を繰り返し確認する。

第118回医師国家試験

正解:b

解説

ACPとは、将来の医療・ケアについて、患者・家族と医療・ケアチームが話し合うプロセスのことである。ACPの目的は、患者の価値観や意向を尊重し、その人らしい医療・ケアを実現することである。ACPでは、患者本人の意思決定を支援することが何より重要である。家族の意向は重要ではあるが、あくまでも患者本人の意思決定を支援するための情報として位置づけるべきである。多職種が連携し、話し合った内容を記録に残し、患者が話しやすい環境を整え、患者の意思を繰り返し確認することが求められる。

a. 多職種で支援する。
ACPでは、医療者だけでなく、介護・福祉の専門職など多職種が連携して支援することが重要である。多職種の視点から、患者の価値観や意向を尊重したケアプランを立案することが求められる。

b. 患者より夫の意向を優先する。
ACPでは、患者本人の意思を最優先することが大原則である。
家族の意向は重要ではあるが、あくまでも患者本人の意思決定を支援するための情報として位置づけるべきである。患者より夫の意向を優先することは、ACPの原則に反する。
なにより、患者の自己決定権の著しい侵害であるといえよう。

c. 話し合った内容を記録に残す。
ACPでは、話し合った内容を記録に残すことが重要である。記録を残すことで、患者の意向を多職種で共有し、一貫したケアにつなげることができる。また、患者の意向が変化した場合にも、それまでの経緯を振り返ることができる。

d. 患者が話しやすい環境を整える。
ACPでは、患者が自分の価値観や意向を率直に表明できるように、話しやすい環境を整えることが重要である。患者と信頼関係を築き、十分な時間をかけて丁寧に話し合うことが求められる。患者のプライバシーに配慮し、安心して話せる環境を整えることが大切である。

e. 患者の意思を繰り返し確認する。
ACPでは、患者の意思を一度確認するだけでなく、繰り返し確認することが重要である。患者の意向は変化することがあるため、定期的に話し合いの機会を設けることが求められる。患者の意思を繰り返し確認することで、その時々の状況に応じた意思決定支援を行うことができる。

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