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23 歳の男性。職場に行けないことを主訴に来院した。2 か月前に商品発注のミスで取引先の会社から苦情を受け上司からも強く叱責された。その後、気分が晴れず、仕事に前向きになれない。夜は仕事のことが頭から離れず寝つきが悪くなったが、休日には趣味のサークル活動を以前と変わらず楽しめていた。1 週間前から、朝会社に行こうとすると動悸がするようになり休んでいる。既往歴と家族歴に特記すべきことはない。受診後、自宅療養することとなり動悸は軽快した。また、会社から上司が叱責したことへの謝罪を受け、取引先を変更してもらったところ、3 か月後から復職が可能となった。
診断はどれか。
a  うつ病
b  社交不安障害
c  概日リズム障害
d  適応障害〈適応反応症〉
e  心的外傷後ストレス障害

第118回医師国家試験

正解:d

解説

a. うつ病は、抑うつ気分や興味・喜びの喪失を特徴とする気分障害である。本症例では、気分の落ち込みや仕事に前向きになれない点はうつ病の症状と合致するが、休日の趣味は楽しめており、うつ病の診断基準を満たさない。
b. 社交不安障害は、他者に注視される状況に対する著明な恐怖や不安を特徴とする不安障害である。本症例では、対人場面に対する恐怖や不安は明らかでなく、社交不安障害の診断基準を満たさない。
c. 概日リズム障害は、睡眠-覚醒リズムの異常により不眠や眠気を呈する疾患である。本症例では、仕事のことが頭から離れず寝つきが悪い点は不眠の症状と考えられるが、概日リズムの異常は明らかでない。
d. 適応障害は、心理社会的ストレスに対する不適応反応として、情動的・行動的症状を呈する疾患である。本症例では、上司からの叱責というストレスイベントに引き続いて、気分の落ち込みや不眠、動悸などの症状が出現しており、適応障害の診断基準を満たす。また、ストレス要因の除去により症状が改善している点も適応障害の特徴と合致する。
e. 心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生命の危険を感じるような強い心的外傷体験後に、外傷体験の再体験や回避症状などを呈する疾患である。本症例では、上司からの叱責は心的外傷体験とは言えず、PTSDの診断基準を満たさない。

考察

本症例は、上司からの叱責というストレスイベントに引き続いて発症した適応障害と考えられる。適応障害は、心理社会的ストレスに対する不適応反応として、抑うつ気分、不安、行動障害などの症状を呈する疾患である。診断基準としては、①特定の心理社会的ストレス因子の存在、②ストレス因子発生後3ヶ月以内の症状出現、③臨床的に意味のある苦痛や機能障害の存在、④他の精神疾患の診断基準を満たさない、⑤ストレス因子が持続する間かそれ以降6ヶ月以内に症状が消失する、などが挙げられる。本症例では、上司からの叱責というストレス因子に引き続いて、気分の落ち込みや仕事への意欲低下、不眠、動悸などの症状が出現しており、適応障害の診断基準を満たしている。また、ストレス因子の除去(上司の謝罪、取引先の変更)により症状が改善し、3ヶ月後には復職可能となっている点も適応障害の特徴と合致する。適応障害の治療では、支持的精神療法とストレス管理が基本となる。本症例でも、休養により症状の改善が得られている。また、ストレス因子への介入(上司の謝罪、取引先の変更)も症状の改善に寄与したと考えられる。薬物療法としては、抑うつ症状に対する抗うつ薬、不安症状に対する抗不安薬などが用いられることがある。適応障害は、ストレス因子への適切な対処により予後良好な疾患である。日常診療において、ストレスに伴う心身症状を訴える患者では、適応障害の可能性を考慮し、ストレス因子の評価と適切な対応を行うことが重要である。

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