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65 歳の男性。定期受診で来院した。自宅近くの診療所を糖尿病と高血圧症で通院し、ビグアナイド薬、DPP-4 阻害薬およびアンジオテンシン受容体拮抗薬が処方されている。自覚症状はない。喫煙歴と飲酒歴はない。運動に毎日 7,000 歩を歩いている。身長 164 cm、体重 60 kg。脈拍 72/分、整。血圧 118/72 mmHg。家庭血圧 120 台/70 台。胸部と腹部とに異常を認めない。アキレス腱反射は両側で消失している。尿所見:蛋白 3+、潜血(-)、沈渣に赤血球 1~2/HPF、白血球 0~1/HPF、円柱はない。随時尿の尿蛋白 500 mg/dL、尿クレアチニン 250 mg/dL。血液所見:赤血球 300 万、Hb 10.0 g/dL、Ht 33%、白血球 6,200、血小板 31 万。血液生化学所見:尿素窒素 25 mg/dL、クレアチニン 1.2 mg/dL、eGFR 48.0 mL/分/1.73 m2、尿酸 6.0 mg/dL、血糖 120 mg/dL、HbA1c 7.2%(基準 4.9~6.0)、Na 142 mEq/L、K 5.0 mEq/L、Cl 108 mEq/L。
この患者の腎機能低下を抑制するために追加する薬剤はどれか。
a  尿酸降下薬
b  SGLT2 阻害薬
c  カルシウム拮抗薬
d  スルホニル尿素薬
e  陽イオン交換樹脂製剤

第118回医師国家試験

正解:b

解説

本症例は、糖尿病と高血圧を合併した慢性腎臓病(CKD)患者である。尿蛋白と血清クレアチニンの上昇、eGFRの低下を認めており、糖尿病性腎症の状態と考えられる。腎機能の保護と悪化抑制を目的とした薬剤選択が求められる。
a. 尿酸降下薬は、高尿酸血症に対する治療薬であり、本症例では尿酸値は正常範囲内であるため適応ではない。
b. SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのグルコース再吸収を阻害することで、血糖降下作用と体重減少作用を示す。近年、CKD患者においても、腎保護作用と心血管イベント抑制作用が示されている。本症例では、SGLT2阻害薬の追加により、腎機能の保護と悪化抑制が期待できる。
c. カルシウム拮抗薬は、血管平滑筋弛緩作用による降圧薬であり、CKD患者でも使用可能である。ただし、蛋白尿減少効果はアンジオテンシン受容体拮抗薬ほど期待できない。本症例では、すでにアンジオテンシン受容体拮抗薬が使用されているため、カルシウム拮抗薬の追加は優先度が高くない。
d. スルホニル尿素薬は、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌を促進する血糖降下薬である。CKD患者では、低血糖のリスクが高いため、使用は控える。本症例では、DPP-4阻害薬が使用されており、スルホニル尿素薬の追加は避けるべきである。
e. 陽イオン交換樹脂製剤は、高カリウム血症に対する治療薬である。本症例では、血清カリウムは5.0 mEq/Lと軽度高値であるが、緊急性はなく、陽イオン交換樹脂製剤の適応ではない。

考察

慢性腎臓病(CKD)は、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどを背景として発症する。CKDの診断には、尿異常、画像診断、血液検査などが用いられる。尿所見では、尿蛋白や尿潜血の持続を認める。血液検査では、血清クレアチニンの上昇とeGFRの低下を認める。CKDの重症度は、eGFRと尿蛋白量により評価される。CKDの治療目標は、腎機能の保護と全身合併症の予防である。治療の基本は、原疾患の管理と生活習慣の是正である。糖尿病患者では、血糖コントロールとともに、腎保護作用のある薬剤の使用が推奨される。降圧療法では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬が第一選択となる。これらの薬剤は、糸球体内圧の低下と尿蛋白の減少を介して、腎保護作用を示す。近年、SGLT2阻害薬のCKDに対する有効性が注目されている。SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのグルコース再吸収を阻害し、ナトリウム利尿と体重減少をもたらす。その結果、糸球体内圧の低下と尿蛋白の減少により、腎保護作用を発揮する。大規模臨床試験では、SGLT2阻害薬が、CKD患者の腎機能悪化と心血管イベントを抑制することが示されている。特に、糖尿病を合併したCKD患者での有効性が期待される。CKDの治療では、患者の全身状態や合併症を評価し、個々の病態に応じた薬剤選択が求められる。多面的な治療アプローチにより、腎機能の保護と予後の改善を目指す。

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