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5 歳の男児。発熱と耳痛を主訴に両親に連れられて来院した。2 日前から鼻水があった。昨日から左耳痛と発熱が出現したため外来受診した。体温 37.5℃。左の鼓膜所見を別に示す。
適切な治療はどれか。
a 耳洗浄
b 耳管通気
c 抗菌薬投与
d 鼓室形成術
e 鼓膜チューブ挿入術

第118回医師国家試験

正解:c

解説

この症例は、5歳男児の急性中耳炎について問うものです。鼓膜所見と臨床経過から、各治療選択肢の適切性を考察いたします。
a. 耳洗浄:急性中耳炎に対する耳洗浄は、適切な治療ではありません。耳洗浄は、外耳道の洗浄を目的とするものであり、中耳炎の治療には用いません。
b. 耳管通気:急性中耳炎に対する耳管通気は、適切な治療ではありません。耳管通気は、耳管開放症などの耳管機能障害に対する治療であり、中耳炎の治療には用いません。
c. 抗菌薬投与:急性中耳炎の主要な原因は、細菌感染です。発熱、耳痛、鼓膜の発赤・膨隆などの典型的な症状がある場合は、抗菌薬治療が第一選択となります。本症例も、抗菌薬投与が最も適切な治療と考えられます。
d. 鼓室形成術:鼓室形成術は、慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎などに対する手術療法です。急性中耳炎に対する治療としては適切ではありません。
e. 鼓膜チューブ挿入術:鼓膜チューブ挿入術は、滲出性中耳炎や反復性中耳炎などに対する治療法です。急性中耳炎の初期治療としては適切ではありません。
以上より、この症例の急性中耳炎に対する最も適切な治療は、抗菌薬投与(選択肢c)です。

考察

急性中耳炎は、小児期に最も頻度の高い感染症の一つです。ウイルス感染に引き続いて細菌感染が生じ、中耳腔に炎症が波及することで発症します。主な原因菌は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスなどです。
急性中耳炎の典型的な症状は、耳痛、発熱、鼓膜の発赤・膨隆などです。乳幼児では、耳痛を訴えることが難しいため、啼泣、睡眠障害、食欲不振などの非特異的な症状を示すことがあります。
診断には、鼓膜所見が重要です。発赤、膨隆、光錐の消失、鼓膜の可動性低下などが認められます。また、鼓膜切開により膿性の貯留液が確認されれば、診断は確定的です。
治療の第一選択は、抗菌薬投与です。ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系などの抗菌薬が用いられます。抗菌薬の選択には、原因菌の推定、年齢、重症度、アレルギー歴などを考慮します。
一方、抗菌薬の乱用による耐性菌の出現も問題となっています。軽症例では、自然経過を見守るという選択肢もあります。病状の変化に注意しながら、必要に応じて抗菌薬治療を開始するという方法です。
合併症としては、乳様突起炎、髄膜炎、硬膜下膿瘍などがあります。重症例や治療反応性の乏しい症例では、これらの合併症を念頭に置いた慎重な経過観察が必要です。
予防には、ワクチン接種が有効です。肺炎球菌ワクチン、インフルエンザ菌ワクチンなどの接種により、急性中耳炎の発症リスクを下げることができます。
急性中耳炎は、適切な診断と治療により、良好な予後が期待できる疾患です。しかし、乳幼児期の反復性中耳炎は、言語発達や学習能力に影響を及ぼす可能性があります。長期的な視点に立った管理が重要です。
医療者は、急性中耳炎の病態と治療を理解し、適切な診療を行うことが求められます。同時に、家族への教育と支援も重要な役割です。症状への対処法、予防接種の重要性、合併症の徴候などについて、分かりやすく説明することが大切です。
急性中耳炎は、小児期の代表的な感染症です。適切な診断と治療、予防を通して、子どもたちの健やかな成長を支えることが、小児医療に携わる者の使命といえるでしょう。

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