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62歳の女性。蛋白尿と腎機能低下のため来院した。4か月前から肺癌のためシスプラチンを含む薬物療法を受けており、治療開始時の蛋白尿は陰性、血清クレアチニンは0.8mg/dLであった。昨日の外来検査で蛋白尿と腎機能低下が認められたため紹介されて受診した。意識は清明。身長158cm、体重54kg。脈拍68/分、整。血圧134/74mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。尿所見:尿比重1.014、蛋白1+、糖2+、潜血1+、沈渣は赤血球5~9/HPF。1日尿量1,200mL、1日尿蛋白1.1g/日。尿中β$${_2}$$-マイクログロブリン54,630μg/L(基準200以下)。血液所見:赤血球308万、Hb 10.8g/dL、Ht 32%、白血球4,000、血小板14万。血液生化学所見:総蛋白6.4g/dL、アルブミン3.5g/dL、AST 16U/L、ALT 11U/L、ALP 489U/L(基準115~359)、γ-GT 16U/L(基準8~50)、尿素窒素24mg/dL、クレアチニン1.3mg/dL、尿酸1.8mg/dL、血糖84mg/dL、HbA1c 5.2%(基準4.6~6.2)、Na 142mEq/L、K 3.3mEq/L、Cl 120mEq/L、Ca 7.8mg/dL、P 1.2mg/dL。動脈血ガス分析(room air):pH 7.30、PaCO$${_2}$$ 30Torr、PaO$${_2}$$ 98Torr、HCO$${_{\text{3}^{\text{-}}}}$$ 15mEq/L。
あ、ふたご山がある。
考えられるのはどれか。
a 腎性尿崩症
b Liddle症候群
c Bartter症候群
d Fanconi症候群
e Gitelman症候群

第114回医師国家試験

正解:d

解説

本症例では、シスプラチンを含む薬物療法後に蛋白尿、腎機能低下、低カリウム血症、低リン血症、代謝性アシドーシスなどの所見が認められています。これらの所見からFanconi症候群が疑われます。

Fanconi症候群は近位尿細管の機能障害により、アミノ酸、ブドウ糖、リン酸、重炭酸塩などの再吸収障害をきたす疾患です。特徴的な所見は以下の通りです。

  1. 蛋白尿(低分子蛋白尿)

  2. 糖尿(腎性糖尿)

  3. 低リン血症

  4. 代謝性アシドーシス

  5. 低カリウム血症

  6. 高尿中β2-マイクログロブリン排泄

本症例ではこれらの所見が揃っており、Fanconi症候群の診断に合致します。

Fanconi症候群の原因としては、シスプラチンなどの薬剤性、ライソゾーム病(シスチン症、ウィルソン病など)、多発性骨髄腫、アミロイドーシスなどが挙げられます。本症例ではシスプラチンの使用歴があることから、薬剤性のFanconi症候群と考えられます。

他の選択肢については以下の理由から除外されます。

a. 腎性尿崩症
多尿、高ナトリウム血症、脱水などを呈する。

b. Liddle症候群
低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高血圧などを呈する。

c. Bartter症候群
低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高レニン高アルドステロン症などを呈する。

e. Gitelman症候群
低カリウム血症、代謝性アルカローシス、低マグネシウム血症などを呈する。

以上より、本症例で最も考えられるのはFanconi症候群(選択肢d)です。

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