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川柳で若い世代にエールを送りたい 23/10/22

1.川柳の一言コメント

「恥多き半生酒に溶かし飲む」

 「恥ずかしい」を手元の辞書でひくと、①自分の過ちや欠点や劣っていることに気がひけて、面目ない。②照れくさくて人の顔が見られない感じである。きまりが悪い。と書いてありました。

 今回の川柳にある「恥」は上記の①です。どういう時に恥ずかしいと感じるかは個人の感じ方に大きく影響されますが、例えば、自分ならまず失敗しないだろうと思う事で失敗すると恥ずかしいと感じるでしょう。

 また、人は多かれ少なかれプライドを持っています。名刺に肩書がある人は、その肩書にそぐわない発言や行動をしてしまうと批判を受けます。例えば、「課長らしくない」とか、「先生ともあろうお方が何という事を」とか。

 そんなとき、本人がその批判を認めれば恥ずかしいと感じるでしょうが、認めないときは逆に怒り出すかもしれません。

 幼い兄弟を例にとると、兄は弟に対して優越的立場に居ると考えるのが一般的です。親が「あなたはお兄ちゃんなんだから、弟のお手本にならないといけないよ」と教えたりするので、「兄は弟より上だ」という気持ちになります。

 ですから、弟がしないような失敗を兄がしてしまうと、兄は恥ずかしいと感じます。その事を親が叱ると、兄は自分の過ちを認めて、恥ずかしいとか悲しいとかいう気持ちになって泣き出したりします。

 しかし、親と同じ言葉で弟が兄をたしなめたりすると、兄は自分がした恥ずかしい事は横に置いておいて、自分のプライドが傷つけられたと怒り、弟にげんこつをくらわすでしょう。人の感情は複雑です。

 但しこれは、本人が自分自身に自信とプライドを持っている場合です。

2.私の経験で思う事

 私は早生まれだったので、小学生の頃は身体が小さく体育の授業ではいつも劣等感を感じていました。また、両親の夫婦仲が悪く、毎日喧嘩している状態だったので、自宅ではいつ夫婦喧嘩が始まるかビクビクしていて情緒不安定でした。

 小学校は一学年2クラスの小規模な学校でした。同学年のみんなとはお互い良く分かり合っていて、みんなが友達という感覚でした。しかし中学校に進むと一学年7クラスになり、どんな人か分からない同級生が圧倒的に多くなりました。

 私は中学生になっても相変わらず体育は不得意で、自己主張も控えめでした。私は、大勢の同級生の中で自分が埋没してしまうように感じていました。自分の存在感が薄くなり、自分が居なくても誰も困らないとか、ネガティブな考え方をすることが増えたように思います。

 但しそれでも、学生時代は「下級生より上だ」という、あまり意味のない優越感やプライドを持てましたのでまだましでした。それが社会人になると、競争に勝てるかどうかの実力社会になり状況が変わりました。

 特に最初に就職した都市銀行では競争が激しく、私より頭が切れて気配りができて、質の高い仕事を早くできる人が周りに大勢いましたので、私は最初から気後れするようになっていました。

 もちろん、素晴らしく頭がいいのに要領の悪い人や、仕事はできても性格に問題があって人間関係でトラブルを起こす人も居ましたから、全ての人が優秀という訳ではありませんでした。それでも私は銀行内の競争に勝てず、昇給・昇格が毎年後回しになり、自信喪失気味になりました。

 私が高卒で入行したという事情はありましたが、大卒の後輩にはどんどん抜かれ、高卒でも私より仕事の出来る後輩に抜かれ、銀行員として輝けず、苦しい日を数多く過ごしました。私のプライドらしきものは風前の灯になっていました。

 仕事でミスをすると、「俺は出来ない奴だ」と思いましたし、昇給・昇格で後輩に追い抜かれると、「俺は負けたのか」と思うのです。そんな事が続くと、「俺はダメな男だ」というふうに感じるようになりました。その事を「恥ずかしい」と感じたのでした。

 まあ、職場が自分の能力や性格に合っていなかったのですが、当時は生活費を得る手段が他に無いと考えていて、そのまま我慢して勤めたのでした。「仕事を失う⇒収入が無くなる⇒ホームレスになる」と考えると怖かったのです。

 仕事はこなしていましたが元気溌剌とはいかず、「世の中、こんなもんだ」というあきらめの気持ちもありました。今思えばさっさと辞めて、もっと元気の出る別の道に進むべきでした。

 私は、仕事に悩み、恋愛に悩み、生き方に悩み、複雑に絡み合った様々な悩みを誰にも打ち明けられず一人で悶々としていました。自分の存在意義を感じられず、何のために生きているのか分からない、先が見えない状態でした。

 1970年代に「酒と泪と男と女」という歌が流行りました。河島英五という人の歌ですが、もう半世紀近く前の話ですので以下に歌詞とユーチューブのリンクを貼っておきます。

「酒と泪と男と女」        作詞:作曲:歌:河島英五
忘れてしまいたい事や どうしようもない寂しさに
包まれた時に男は 酒を飲むのでしょう
飲んで飲んで 飲まれて飲んで 飲んで飲みつぶれて 眠るまで飲んで
やがて男は 静かに眠るのでしょう

忘れてしまいたい事や どうしようもない 悲しさに
包まれた時に女は 泪みせるのでしょう
泣いて泣いて 一人泣いて 泣いて泣きつかれて 眠るまで泣いて
やがて女は 静かに眠るのでしょう

またひとつ 女の方が偉く思えてきた またひとつ 男のずるさが見えてきた
俺は男 泣き通すなんて出来ないよ 今夜も酒をあおって眠ってしまうのさ
俺は男 泪はみせられないもの

飲んで飲んで 飲まれて飲んで 飲んで飲みつぶれて 眠るまで飲んで
やがて男は静かに 眠るのでしょう

※ 「眠る」を「寝むる」と表記している箇所があります。

 忘れてしまいたい悲しい事、辛い事、恥ずかしい事、寂しい事、私には沢山あります。若い頃、酒を飲んで紛らわせた事もありました。

 でも、酒は本来楽しく飲むものです。悲しみや苦しみを紛らわせる為に、酒に頼りすぎるのは良くありません。酩酊して失敗したり、身体を壊したりして破滅の始まりになりかねません。

 もし、どうしようもなく落ち込んで、追い詰められたら、そこから逃げていいと思います。また、男でも泣きたかったら泣いていいと思います。

 私は、銀行員として行き詰まって退職し、しばらく一人で過ごしましたが、自分の生き方にも行き詰まり郷里に戻りました。その後、地元の梅干し製造販売の会社に就職しましたが、その会社を一年でクビになりました。

 都会の銀行で約25年勤めたからといって、田舎の中小企業で勤まるとは限りません。最初の半年ほどは高評価を得ましたが、ワンマン社長の体制に違和感を感じながら仕事をしていましたので、社長に嫌われたのかもしれません。

 ある日、上司から突然「辞めてもらう」と言われたとき、情けなくて上司の前で泣いてしまいました。「みっともなくて済みません」と言いながらも、涙が止まらなかった。わずかに残っていたプライドは粉々に砕け、自分が消えてしまいたくなりました。

 頭の中が真っ白になって思考が停止しました。上司から「今日は帰っていい」と言われ帰る事にしました。その時は自家用車で通勤していましたが、真っ直ぐ家に帰る事ができず、3時間ほど行く当てもなくドライブしました。確か、47歳でした。

 人生で最も大切なものは何でしょうか。仕事は大切ですけど、仕事が人生の全てではありません。もし、今の仕事を天職と思っている人でも、何らかの理由でその仕事ができなくなる事はあり得ます。その時は絶望するかもしれませんが、様々な仕事がありますので生きていけます。

 元気でさえいれば、艱難辛苦は時間が解決してくれます。絶望しても、自分で自分自身をゴミ箱に放り込まない事が大切です。苦しみもがいているうちに、どこかに光が見えてくるものです。

 どんな人でも何かしら良い所があります。自己肯定感がなくなって「自分はダメ人間だ」と思っても、1から10まで全てダメな人は居ないはずです。また、仮に自分をダメ人間と認めてしまっても、それでも生きていて良いのです。現に私はまだ生きています。

 今まで「恥ずかしい」と思った事は山ほどありますが、過ぎてしまえば過去の事として心の整理を付けられます。恥ずかしかった経験も、今の自分を形作っている一部分になっています。そういう事、全て含めて今の私です。 

3.瀬川さんの絵

 漫画家の瀬川 環さんが、この川柳からイメージした絵を描いてくれました。

恥多き半生酒に溶かし飲む

 瀬川さんは、この絵と共に以下のようなコメントをくれました。

 「仕事やプライベートなどで失敗や情けないことだったり踏ん切りがつかないこと等、人の一生では数多く体験すると思いますが、歳を重なるにつれ、当惑しストレスで精神が融解して泣いてしまう若者も次第に落ち着いて受け止めることができ、最終的には笑って流せるようになるような、そんな画が浮かんできました。

 同じ状況だけども、年齢を重ねれば反応がどんどん変化していくようなイメージです。なのでちょうど三世代ぐらいの年齢のサラリーマンで描いてみました」

 実は、私は今も時々、銀行員として働いている場面を夢に見ます。支店の窓口担当者だったり、後方の事務処理担当だったり、朝礼や会議に同僚と一緒に出席して話を聞いていたり。

 夢の中の私は、何かしら困った状態に置かれています。窓口担当者の場合は、午後3時に支店のシャッターが閉まって勘定の締め上げをしていて、収支が合わずに何度も計算のやり直しをしています。

 事務処理担当の時は、月末の大量の事務処理に追われています。銀行内では、システムの締切時間内に処理しきれなれば支店の評価が下がりました。私の責任で評価を下げる訳には行きません。私は、はらはらドキドキの状態で必死に事務処理をこなしています。

 会議等では、自分や自分の係の成績が良くなくて、同僚から白い目で見られているとか、大きな失敗をとがめられているとか。そして心臓の鼓動が早くなって・・・目が覚める。

 気が付くと部屋の天井が見えて、自分の部屋で一人で眠っていたと分かります。そして、「あぁ、夢か。もう過ぎた話だな。今はもう、働いていないんだ」と、安堵するのです。

 結局私は、銀行の仕事から自分を守るために逃げたのだと思います。苦しい夢でも夢から覚めたら、夢の苦しみはそれ以上追いかけて来ません。苦しい夢は見るけれど、すでに解決済みです。

 仕事に限らず、自分に合わない事や嫌な事でもしなければならない場面はあります。しかしその時、もし選択できるなら、元気が出て楽しく感じる方を選択するべきです。


 

 

 

 


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