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「好きな歌手」考 03

ドミンゴやカレーラスについて語ったなら
やはり、もう一人のスペイン系テノール
アルフレード・クラウスについても
言及せねばなるまい。


イタリア・パルマの名伴奏者
E.フルロッティのレッスンに通っていた時、
何度かクラウスについて
レッスンで話題に上ったことがある。

モナコやステファノの歌唱スタイルは
日本でこそ「特異」とされるものであったが
イタリアにおいては二人のようなタイプの歌手は
これまでにも度々現れており、
さほど珍しいというものではなかった。
(あくまで同系のタイプが過去にもいたというだけで
 二人のレベルにまで昇華していたかは別問題)

だが、先生によれば
A.クラウスの存在こそが「特異」なものであり
「彼は一種のモンスターだ。
 余人に真似できるものではない」
とのこと。

勿論、彼の呼吸法など
歌手として参考になる部分も多く
学べるところも沢山あるのではあるが、
「下手に彼の真似をしようとしても
 真似しきれるものではなく
 逆に火傷を負う破目になる」
ということなのだろう。

後に、クラウス自身からの集中レッスンを
受ける機会を得ることができた私だが、
そのレッスンを通じて感じたことも
フルロッティの意見を裏打ちするものだった。

・・・うーむ、
クラウスはどちらかというと
私にとっての「畏怖の対象」であって
「好きの対象」ではないのだろうな。

デビューしたての若い頃の演奏は
まだ彼の「やんちゃな面」が残っていて
その極めて人間的な「才気活発さ」が見えるだけに
「これなら何とかなるのではないか」
と思いもするのだが・・・

(もちろん思えただけであって
 実際に「何とかなった」のであれば
 私はここにいるはずもない!)

70近い歳(確か68の頃)で
朝、送迎車で劇場に乗りつけ、
その足でリハーサル室に駆け込むと
ウオームアップも何もなく
即座に重唱でハイCを楽々と張り上げ
相方のソプラノをノックアウトする・・・

そういうテノールを間近で見たのは
後にも先にも
クラウスの時だけである。

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