見出し画像

「渇愛」

  "Cantares"
    ー Ramón de Campoamor ー

  Mas cerca de mí te siento
  cuanto más huyo de ti,
  pues tu imagen es en mí
  sombra de mi pensamiento.

  Vuélvemelo hoy a decir,
  pues, embelesado, ayer
  te escuchaba sin oír,
  y te miraba sin ver.

  お前から離れれば離れるだけ
  お前を近くに感じてしまう、
  なぜなら 私の中にあるお前は
  私の想いの影なのだから

  もう一度 私に言ってくれ
  なぜなら 昨日はあまりの法悦の中
  お前の言葉は聞こうとして聞こえず
  お前の姿は見ようとして見えなかったのだ
             (訳:小迫良成)

※ ※ ※ ※ ※


ホアキン・トゥリーナの歌曲集
《歌の形をした詩》の第3曲、
「Cantares (カンタレス)」。

この歌曲集の中でも最も有名で
この曲だけを取り出して
単体として歌われることも多い。

元の詩は、カンポアモルの
《Amorosas》(恋愛詩)の中から
2つの詩を合わせたもの。

歌曲集《歌の形をした詩》の他の歌が
《Doloras y Humoradas》
(哲学詩と諧謔詩)の中から
取り上げられているのに対し、
この「カンタレス」だけは
例外的に他の詩集を使っている。

それはつまり、
詩集のテーマに沿って
歌曲集が作られたのではなく、
むしろ
トゥリーナ自身が立てた
作品テーマに沿う形で
カンポアモルの各詩集から
詩を選んでいったということなのだろう。

2曲目の"Nunca olvida"が
人生の黄昏に至るまで
長い熟成をかけてきた愛への
最後の執着を表すならば、
この"Cantares"は
人の「恋愛期」ともいえる季節、
自分でも制御することのできぬ
激情の嵐のような愛の中に
翻弄される自分を表している。

元の詩に記されていない
節の合間に出てくる"Ai"の感嘆詞・・

そして
その言葉に宛てられたメロディの揺れ・・

主人公の苦悩と激情が
見事に表現された一曲である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?