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「笠岡のしゃこ」

私の郷里は
広島県の東端にある福山というところ。

広島市までは109キロ、
岡山市までは確か60キロ、
地理的にも歴史的にも
広島より岡山に近い場所だったりする。
(広島は安芸、福山は備後と
 昔から国も違っていた)

この福山市の隣にあるのが
岡山県の笠岡市。

国道2号線を東上し
県境の山間にあるトンネルを抜けると
一気に笠岡湾の光景が拡がってくる。

小さい頃、
旅行好きだった父の車に乗せられて
何度も通った道。

家から国道2号に出て
笠岡まで至る道すじは
今でもはっきりと
思い出すことが出来る。

さて、
笠岡湾は国の天然記念物、
カブトガニの生息地としても有名だが、
地元や福山の人達にとっては
何よりも
「しゃこの採れる場所」
として知られていた。

今はどうか判らないけど、
昔は採れたてのしゃこを湯がき、
ざるで盛って食べさせる店が
何軒もあったのだ。

「しゃこ」ってのは、
見た目はあまり良くないけれど、
(特に平べったいところ・・・)
二杯酢で食べると、美味い。

手で殻を剥くこともできるけど
海老と違って手を切りやすいので
ハサミで脇の平たいところを切り
そこから剥がしていくのが主流だったな。

笠岡湾の真ん中に橋を通して
国道2号線が走っているのだが、
その先にあった空き地に車を止め
橋の歩道を歩いて戻りながら下を眺めると
浅瀬っぽいところに墨色の影がいくつか
水面を通して目に入ってくる。

時折クイっと素早く動いては
またじっとしていたりする「しゃこ」の影。

そのしゃこの影を面白く眺めつつ
ふと視線を対岸に向けると
「しゃこ」と書かれた看板が
あちこちの家に掲げられている。

ネオンサインなどではなく、
白い板に黒く「しゃこ」と書かれているだけ。
そこが、しゃこを食べさせるお店だ。

そこで食べたしゃこは、本当に美味かった。

夕暮の笠岡湾と
橋を歩く父と子と
店から外にまで漂ってくる
しゃこを大釜で茹でる匂いと
橋の下に見えるしゃこの影と・・・

おそらくは
まだオイルショックになる前の時代、
今から50年ほど前の
私の原風景のひとつである。



ワハハ、
ブログに載せた酒の肴の写真を眺めながら、
昔の郷里の味を
思い出してしまいました。

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