ブルジョア高校生 ダビデの博打 ① 【創作大賞 2024 漫画原作部門】
あらすじ
お金持ちの家に生まれた高校生、大本ダビデはナルシストだ。そんな彼のもとにクラスメイトから依頼が舞い込む。その内容は、ヤクザとポーカーで戦い、妹を救出して欲しいというものだった。
大本ダビデは、ヤクザの運営する
カジノに乗り込こむ。
そこで行われているゲームは、
トランプのスペードとダイヤの1から4 、
8枚しか使わない特殊なルールのポーカーだった。
ヤクザはこのポーカーにおいて、
絶対に負けない戦略を用意していた。
その戦略を大本ダビデは見抜き、
ポーカーでヤクザから勝利を収める。
1話は学園コメディー。
2話、3話はポーカーミステリーです。
【ダビデと撮影会】
昼休憩は、案外、残酷だ。
誰と誰が友達でって、いうのが解ってしまう。
グループに分かれて、ご飯を食べるのは、
そういう意味を含んでいる。
僕にしたって、今、撮影している彼がいなければ、ボッチまっしぐらだ。
昼ボッチは、もれなくボッチ飯がついてくるので、ずっと昼飯を抜いていた。
後ろの席ではしゃぐ男子達に怯えながら、
机に伏せて、なんでもないフリをしていた。
親指が触れるたび、スマホからシャッター音がする。
カッコ良いってなんだろう?
最近の一番の悩みかもしれない。
写真を撮るたび、よぎる違和感。
被写体の大本ダビデは整っている。
切れ長の目、縦長のほっそりとした鼻。
どこか、良家を連想させる顔立ちをしている。
だが、太っている。ふくよかだ。
身長も170cmに届かない。
だけど、カッコイイと感じる。
次々にポーズを決めていくダビデ君。
頭の後ろで手を組むと、身体を斜めに構え、
動きを止めた。
顔の角度を上向きに変えたダビデ君は、
小さく口を開いた。
セクシーさを強調しているようだ。
「この色気!女子達は、骨抜きになるよね!」
骨抜きというよりかは
骨ばっているというのが正しい。
異質な恐怖に“女子達”は怯えている。
ブレザー制服の襟を両手で直し、
ダビデ君は呼びかける。
「子猫ちゃん達、彼女募集中だよ?
さあ!順番にならんで!」
子猫ちゃん達は、散らかるように距離をとる。
それは、ナイフを持った人に対する
距離感と同じなのかもしれない。
「全くねー…照れ屋さんなんだから…」
大げさに両手を広げる姿は、タレントのようだ。
「相変わらず、ダビデ君だね」
「全ての美しさはダビデに通ず!」
この自信にあふれた姿が、
彼の一番の魅力なのかもしれない。
僕の撮った写真はインスタに使われるそうだ。
【小さなランク争い】
オラついてる所を、周りに見せつけ、
自分の立場を上げようとするクラスの半端者が
ダビデ君にからんでくる。
「お前、自分のことをカッコイイと
思ってるんだろ?鏡見たことある?」
「あまり、見ないかな。
自分の美しさに目がくらむからね」
長い髪をかき上げると、
ダビデ君は半端者に優しく微笑みかける。
「そういうのがキモイんだって」
馬鹿にするようにヘラヘラ笑う姿に、
僕は嫌悪感を抱く。
それに対して、ダビデ君の答えは
「それって、心がざわめいているってことだよね?
恋が始まってるんだよ?気づいてる?」
「さあ、おいで」
とばかりにハグを求めにいくダビデ君に、
半端者は後ずさりする。
「僕がカッコイイのは神様からの贈り物だよ。
いわば天命なのさ。
だからみんなのダビデなんだよね」
そう言い残すと、僕とダビデ君は、
半端者の隣を通り過ぎた。
【ダビデの理屈】
部活に励む人、帰宅ダッシュの人。
放課後の教室にはあまり人がいない。
窓際の隅でダビデ君の声が響く。
「見てくれ!子猫ちゃんからの反応だ」
ダビデ君はスマホを僕に見せる。
昼に撮った写真とDMの通知が表示されている。
画面をタップすると
【今すぐ会いたいです。
イケメンすぎてあなた無しでは生きられないほど
心ひかれています】
「これは酷いフィッシングメールだね..」
僕は鼻で笑ってしまう。
「確かに酷いね。間違ってる」
ダビデ君は左手を握りしめて怒りを表現する。
「この子だけじゃなくて、
世界が僕なしでは生きられないからね」
「息をするようにダビデ君だね…」
僕はため息をつき、続ける。
「それより、この写真、
どっから拾ってきたんだろう?」
スマホにはシャツを開いた、
大きな胸の女の子が映っている。
「そうやって、すぐ疑うのが
君の良くないところだよ」
「じゃあ、本人の写真ってこと?」
「もちろん本人さ!でもそこが問題じゃない」
「じゃあ何が問題なの?」
「自分の才能、いや、
資源の無駄遣いが問題なんだ」
「どういうこと?」
「女の子にとって大きな胸って、
持って生まれた才能でしょ?」
「そうだね」
「大きな胸は、彼女にとっての資源だ。
サウジアラビアの油田のようにね」
「巨乳と油田が同じなの?」
「資源という点では同じだね。
でも彼女はその資源の使い方を間違っている。
インスタで今日見つけた僕に対して
ちょっとエロい画像を送るなんて、
自分を安売りしている」
「まあ、そうだね」
「彼女の大きな胸は、良いパートナーと
結びつく可能性を上げるものだ。
だから”この人はモノにしたい”という
相手に対して、最良のタイミングで
エロを投入すべきなんだ」
「少なくとも、今日見つけた
インスタの男ではないと?」
「そういうことだね。
どんなに価値があるものでも、
投資するタイミングを間違うと、
その価値から得られる利益が減ってしまう。
だから彼女は安売りすべきではないんだ」
「これ、何の話だっけ?」
「投資機会と回収率について」
「案外、難しい話だったんだね…」
僕たちは席を立ち、廊下に出たところで
後ろから声をかけられた。
【”YES”の積み重ね】
下校時の廊下は人けがなくガランとしていた。
祈るように手を合わせた西本は
僕たちの足を止めた。
「頼む!妹を助けに赤山会に潜入してくれ!?」
関係性もないのに、
厚かましい頼みごとをしてくる西本に、
苛立ちを覚えた。
僕は、嫌悪感を隠さず返答する。
「なんでヤクザの事務所に行かなきゃいけないの?
第一、西本君とは友達でもないよね?」
露骨に嫌だと示したのに、
なおも食い下がってくる。
「そう言わずに頼むよ!
妹は無理やりポーカーさせられて、
借金、作らされたあげく、
ヤクザに捕まったんだよ」
「それこそ警察に相談したら?」
「警察は無理なんだよ…
だって、ヤクザカジノだぜ。
通報したら、俺達も捕まっちゃう。
だから、ダビデ、君ん家は金持ちだから、
お金には強いだろ?
だから、ポーカーもいけるだろ?
なー助けてくれよ」
「受けれないね」
と言い残すと、ダビデ君は歩き出した。
その後を僕と西本が追う。
「お前にしか頼めないんだよ!」
西本はダビデ君の両肩をつかみ、
なおも食い下がる。
「僕の必要性を感じないんだよね」
西本の視線を外すように、
ダビデ君は外を眺めている。
「じゃあ、聞くけど、
ルフィとダビデはどっちがカッコイイ?」
「ダビデだね」
とダビデ君は即答する。
「悪いこと、してる人がいたら?」
「辞めさせるね」
「困ってる人がいたら?」
「助けるね」
「知り合いの妹がさらわれていたら?」
「大本ダビデが出ていくね!」
ダビデ君は西本を指差し、顔を決める。
西本が右手を上げると、
ヒラリとハイタッチに応じる。
「さらわれた妹?✕(かける)僕!
ヒーローショーの始まりだ!」
腰に手を当て、空を指差すダビデ君は、
滑稽に見えるだろう。
だけど、僕にとっては"うらやましい"とすら
思う対象だ。
「乗せられちゃったよ、、、」
僕はがっかりを体で表し、
二人の後ろを跳ねるようについていく。
ダビデ君の決断が嬉しかったのかもしれない。
【覚悟の確認】
「なあ、実際いつ潜入する?」
下駄箱からローファーを出しながら西本は尋ねる。
「今日、行くつもりだよ」
“ちょっとコンビニ行くわ”ぐらいの感覚で
ダビデ君は答える。
「ただし、君もついてくるんだよ」
西本は、たじろいで言葉が出ない。
「君が助けなきゃ、お兄ちゃんになれないぜ」
ダビデ君は自分の胸を、こぶしで叩く。
「うーん、でもなあ…」
人任せな態度に、僕は、少しイライラする。
「デッ君も、一緒だよ!僕を見て欲しい!」
急に指名された僕も、たじろいでしまう。
「西本とデッ君、2人とも必要なんだ」
「なんで?」
不本意ながら、僕と西本の声がシンクロした。
「僕の伝説を語るためだよ!」
あ~、と納得した半分、
”しょうがない”のあきらめ半分、
僕はダビデ君について行くことにした。
「助けて貰うんだしな。
ダビデひとりに任せるなんて、違うよな」
西本も頭をかきながら、承諾した。
「欲しかったのは、その覚悟だよ」
とダビデ君の決めセリフ。
両手を組み、自分のカッコよさにひたっている。
さわぐ僕達を、幾人かが聞き耳を立てている。
ダビデ君が歩き出す。
正面のガラス戸に、溜まってた人々が避けていく。
「さあ、乗り込もうか!」
ダビデ君は腕を回し、玄関の階段を降りる。
梅雨前の湿った風にあたる。
今日は、真っすぐ帰れないかもしれない。
なぜか、そんなふうに思った。
【ダイナミック・アポイントメント】
田舎の歩道には人がいない。
だけど、並んで歩くのは許されていない。
3人並んで歩いていても、それを怒る人もいない。
「妹を預かってる人に電話してくれる?」
西本はスマホを取り出し、電話をかける。
そのスマホを奪ったダビデ君は開口一番、
「お電話代わりました。
お金持ちの息子、大本ダビデです」
と宣言した。僕と西本は目を合わせた。
「そちらに、西本君の妹を預かってますよね」
ダビデ君は、そのまま会話を続けている。
「そうです。そうです。
今から迎えに行きますので大丈夫ですか?」
いくつか相槌を繰り返したあと、
「あー、お金ですかー。
ちょっとビデオ通話に変更出来ます?」
というと、スマホを僕に渡し、
こちらを撮影するように
ジェスチャーで伝えてきた。
ダビデ君は黒いクレジットカードを指先で挟み、
カッコイイポーズで構えた。
スピーカーになったスマホから知らない声がする。
「金があることは解った。
1時間で用意するから、マンションに来てくれ。
場所は西本が知っている」
その声で通話は終了した。
「ということで乗り込むぞ!」
ダビデ君は片手を突き上げ、ハイテンションだ。
「自己紹介で金持ちアピールってダサくない?」
と西本がダル絡みをする。
それにダビデ君は大きなジェスチャーで答える。
「親の力は100%使う方が良い。
僕はそう思う。
もし、国民全員参加の100m走があったとして、
その成績によって国民が
ランクづけられるとしたら、
みんな本気で走るよね。
その際に自分だけ30m前から走れるとしたら、
絶対、その権利を使うよね?
自分だけ30m前なんて不平等だ、
なんて思って権利を放棄しないよね?
それと同じだよ」
「まあ、お金があるって、
そういうことなのかもね」
僕は気の抜けた返事をした。
西本の後をついて、
僕たちはマンションに向かった。
【昭和の脅かしかた】
扉の前で立ちすくむ。
「こんな所来て、大丈夫?」
と僕は尋ねる。
ダビデ君の家柄から考えると、
ここへの出入りはマイナスにしかならない。
「大丈夫だよ。だって僕がいる!」
ダビデ君はそう言い残すと扉を開く。
慌てて僕と西本も、後に続く。
中はヤクザ事務所ではなかった。
そこは広いリビングを改装したカジノ場だ。
フローリングに白い壁。エアコンもある。
部屋の中央には、
カジノでよく見る楕円のテーブルが一つ。
天板は緑色でカードゲームなどで
よく使われるものだ。
その上にはチップとトランプが置かれている。
そのテーブルを囲むように
椅子が5脚置かれている。
そこに座っている人間は一般人ではない。
一人目はパワー系ヤクザ。
光の速度でメンチを切ってくる。
すごく睨まれている。
ずっとメンチのターンだ。
見た目は単純に大きい。白ジャージに短髪。
細い眉毛のしかめっ面は、
よく見るヤクザの手下という感じだ。
二人目はインテリヤクザ。
ツーブロックにオールバック。
薄黄色のサングラスに金のネックレス。
文字盤の大きな時計にベルベットのシャツ。
映画で見る、金貸しヤクザという感じだ。
残りの二人は"にぎやかし"ヤクザ。
いわゆるモブである。
「お邪魔します」
ダビデ君が深々とお辞儀をする。
僕と西本もそれにならう。
「オーウ!!」
パワー系ヤクザが立ち上がり、
上下運動をしながらダビデ君に近づいてくる。
「オッ!オウ!」
懐かし映像で見たフラワーロックみたいに、
クネクネしながら距離を詰めてくる。
「オオウッ!オーウッ!」
口の飛沫をまき散らしながら、
パワー系はダビデ君の前で静止した。
「出た!武蔵さんの3段活用あおりだ!」
とモブが煽る。
3段超えてるし… 活用されてないし…
こうして、西本の妹救出作戦は始まった。
【立場を解らせてやる!という余計なお世話】
僕らは立ったままだ。
にもかかわらずパワー系が演説を始める。
「おめーらはクズだっ」
パワー系はテーブルを両手で叩き、
目をひん剥くと、一旦停止。
口を大きく歪ませながら彼は続ける。
「こんな裏カジノに出入りするクズ!」
関係者が言うなよ。
「ギャンブルでしか逆転を狙えないクズ」
相手、地主の息子だぞ。
「底辺!of 底辺! 底の底! 社会の嫌われ者!」
ヤクザが言うなよ。
僕たちの周りを歩きながら、
大きな身振りでパワー系が演説する。
その頭を軽くはたき、インテリ系が
「カイジごっこはその辺にしとけ」
とパワー系をいさめ、椅子に座らせる。
僕たちにも椅子を勧めてくれ、
モブヤクザの以外は、着席した。
「いくら持ってきた?」
インテリ系がダビデ君に聞く。
「100万ですね?足りませんか?」
「妹の引き換え額は高いけど、大丈夫?」
インテリ系は西本を指差しながら話す。
「駄目なら、お金持ちの親に泣きつくので
問題ないです」
とダビデ君が答える。
その言葉に、モブヤクザがざわめく。
「じゃあ、始めようか」
インテリ系は席を立ち、
手元にカードを引き寄せた。
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