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ブルジョア高校生 ダビデの博打 ③ 【創作大賞 漫画原作部門】

【これまでの話】
高校生、大本ダビデは裏カジノで
ポーカーをすることになった。
そのポーカーは
スペードとダイヤの1~4の
8枚だけを使う特殊なルールだった。
相手には、絶対負けない必勝法がある。
大本ダビデはその必勝法を破れるのか?



【勝ったつもり】

「次の勝負だ」

田所は、カードを2枚伏せ、2枚開いた。

「覚悟しろ!10枚だ」

カードとチップを乱暴に出し、
顎をしゃくりながら、武蔵は威嚇した。

ダビデ君は反応せず

「受けて立つよ」

とチップ10枚を出し、カードをセットした。

田所が、カードを開く。

「え!?」

僕は思わず声を上げてしまった。
瞬間、田所の視線が刺さる。
僕は「すいません」と頭を下げ、
手札について考えた。
ダビデ君の手札は「3」と「1」。
この組み合わせなら「1」を先に出すべきだ。
開きに「4」が出ていることも考えると、
2ターン目に「1」で「4」を刺す確率は極めて低い。

「20枚だ!」

武蔵はテーブルを這わすように
カードとチップ20枚を出す。

「受けて立つよ」

とダビデ君は、音も立てずにカードをセットし、
チップ20枚を出した。

田所は2ターン目を開く。

「イャャあアアアアぁあ30万だぜ!
 弱ぇええ!弱ェえええ!
 最弱ぅ!最弱ぅぅう!!」

武蔵は、ダブルF〇CKポーズで勝利宣言をする。
悪意をなすりつける姿は
気持ち悪さすら感じる。

「まいったなー」

困るフリをするダビデ君。
僕の経験上、これは演技だ。
ダビデ君の反応を、田所は静かに見ている。
武蔵とモブヤクザはお祭り騒ぎだ。

ゲーム③
開き 4 2 
1ターン 武蔵 1 ダビデ 3
2ターン 武蔵 3 ダビデ 1
残りチップ   ダビデ 65枚 武蔵 135枚


【壊れたアクセル&ブレーキ】

「次のゲームだ」

田所は、トランプを繰り、ゲームをセットした。

「フウゥッワ!フウゥッワ!」

武蔵は体を上下させ、興奮を隠しきれない様子だ。
チップを手元に掻き寄せ、ガチャガチャしている。
出したくてたまらないが、あふれている。
もしかしたら「4」「3」の手札が
入ったのかもしれない。
だとすれば、このゲームの勝敗は決まっている。
「4」「3」の順番でカードを出せば武蔵の勝ちだ。

「10枚行こう!取り返さないと」

ダビデ君は爽やかな笑顔で、
カードとチップを出す。
僕は目を丸くしてしまう。
周りにはバレてないようだ。

「いいね!そうでないと」

武蔵も同じ数のチップとカードを出した。

田所はカードを開く。


武蔵が「4」を出したので、
残り手札は「3」だろう。
となると、ダビデ君は確実に負ける。
もし、武蔵が「2」や「1」を持っているなら、
あの態度はない。

「降りようかな…」
ダビデ君はカードを伏せ、両手をあげる。

「想定済なんだよ!」

武蔵は、立ち上がり
歯を剥き出しにして、
睨みをきかしながら、
タビデ君へ近づいた。
ふたりの顔の距離。わずか5センチ。

「ゲームオーバーだ」

武蔵は特殊カードを振り上げた。
叩きつけられたカードには、

”このカードを使用した場合、
 相手プレイヤーは降りることができない”

と書かれていた。
終わった…と思った。
それは僕だけなのか?
というのも、盛り上がっているのは、
武蔵とモブヤクザだけである。
田所は、顔をしかめ考えている。

「じゃあ…」

ダビデ君がチップを1枚だけ出す。

「ヒャッハーァァァァ!オールインだ!」

武蔵は立ち上がり、
わしづかみにした全てのチップを
テーブルにぶちまけた。


【問題です】
ここで、一旦物語を中断します。

作者から問題です。
ダビデはここから逆転します。
それは、どのような方法で逆転するのでしょうか?
少し状況を整理します。

まず、ゲームの状況です。

ゲーム④


ゲームは2ターン目のカードを開く前です。
そこへ武蔵は
”降りてはいけない”
という特殊カードを出しました。
ダビデを降りさせないということは、
武蔵は勝利を確信しています。

まず、数字を整理してみましょう。
そこから、武蔵、ダビデの手札の数字を、
考えてみます。
まず、1ターン終了時点での
残りカード枚数を表にしてみました。

:カード残り枚数表

武蔵は勝利を確信しているということは、
手札は「3」になります。
そうするとダビデの手札は
「1」か「2」しか考えられません。

となると、ダビデは特殊カードに
逆転を出来るルールを
仕込むしかありません。

おさらいになりますが、
特殊カードに”俺が絶対に勝つ”という
ルールは設定できません。
田所はダビデの特殊カードを見たとき
「それでいいのか?」
と反応しています。

他にも武蔵のプレイスタイルは、
タイトプレイヤーであると発言しています。
このゲームのタイトプレイヤーとは、
2ターン目に「3」「4」を
出していくプレイスタイルです。

さて、ダビデは特殊カードに、
どんなルールを設定したのでしょうか?

考えてみてください。
では、お話に戻ります。


【勝敗と回答編】
武蔵はテーブルを叩きながら叫ぶ。

「どこぞの坊ちゃんかもしれないけどよー、
 お前は負けたんだ! 
 このど底辺、下の!下ッ!」

ダビデ君は、あおりに一切動じない。

「ねえ、田所さん。
 お金があればいくら賭けてもいいですよね?
 この画面、見てもらえます?」

ダビデ君はスマホを取り出し、
ネット口座にアクセスした。
そこには500万円の残高があった。
その画面を見た田所は、

「プラス100万で手打ちにしてくれないか」

と返答した。
武蔵はダビデ君のスマホをひったくると、
画面を確認した。

「たっぷりあるじゃねーか!
 ガタガタ言うんじゃねー!
 ぶっ潰してやるから、賭けろ!賭けろ!」

武蔵はチップの横にスマホを叩きつけ、
テーブルを回り込み、
ダビデ君の胸倉をつかみ、席を立たせた。

「ということみたいなので」

ダビデ君は胸倉を掴まれたまま
特殊カードをテーブルに開いた。


そこには、

”自分の数字を4にする”

と書かれていた。

「胸ぐら掴まれてのエンディングなんて、
 ヒーローらしくないよね」

武蔵は奇声を上げながら、
なおも締め上げた。
田所は武蔵を殴り、よろめいた所で、
襟首をつかみ、背負い投げにした。
床に叩きつけられた武蔵は、
頭を打ったのか、呻いている。
それを横目で確認しながら、
田所は武蔵のカードを開いた。

「3」

「まー当然だよな。
 おい、西本の妹を連れてきてやれ」

指示を受けたモブヤクザは慌てて
飛び出していった。
座ったままのダビデ君、
放心状態の西本と僕に、田所は話しかける。

「約束通り、妹は返してやる。
 その代わり学生証を出せ。それで手打ちだ」
「何、余計に取ってるんですか?」

ダビデ君は臆せず、田所に聞き返す。

「余計じゃねーよ。
 こっちも賭け金の幅あげてやったんだから
 素直に従え。お前らに通報されないための
 お守りみたいなもんだ。
 どこにも出さねーから早く出せ」

田所は、催促するように右手を出す。

「こっちも、通報なんてしたら
 出入りしてるのバレるんじゃないですか?
 だから、大丈夫ですよ」

「じゃあ、お前だけで良い。さっさと出せ」

指名された西本はバッグから学生証を出した。
それをモブヤクザが写真に収める。

「いつ、武蔵の手口に気づいた?」

「ルールを説明したところです。
 まず、絶対勝てるパターンがあるのに
 気づきました。
 それなら、相手が降りなければ、勝てますよね。  
 そこに、特殊カードなんてルールがあるのは、
 降りるのを防ぐためだろうなって考えました。
 だとすると、相手は「4 」「3」のカードで
 勝負にくると予想しました。
 なので、「4」を出せれば引き分け以上には
 持ち込めます。
 なので「4」を出せる権利を
    特殊カードに書きました」

「なんであそこで特殊カードを使った?」

「あれだけ態度に出てたら…言わずもがなです。
 数字も確定でしたし。
 あの態度で「1」が手札なら、博打の化物ですよ」

田所は大きなため息をついた。
ダビデ君はさらに続ける。

「だいたい、僕を高校生のボンボン野郎って
 軽んじてたのが敗因だと思います。
 彼は大金を扱うには早すぎたのでしょう」

田所はスマホを確認したあと、

「下に来てるから、妹を連れて帰れ。
 あいつの借金はチャラだから安心しろ」

「田所さんがそういうなら」

とダビデ君は玄関へ向かう。
その後を僕と西本が続く。
出て行けと言わんばかりに、
田所は手を払うような仕草をした。


【エピローグ】
「DMくれた娘じゃん?」

ダビデ君のインスタにメッセージをくれた娘が
マンションのエントランスに立っていた。

「お兄ちゃん!ありがとう!」

妹は西本に深々とお辞儀をする。
西本は妹とハイタッチをして喜んでいる。
”助けたのは西本じゃない”と言おうとしたのを、
ダビデ君は察し、僕をジェスチャーで封じた。

「いいの?あれで?」

西本兄妹をマンションに残したまま、
二人で夜道を歩く。

「兄貴がカッコイイ方が妹は幸せだろ?」
「でも、嘘じゃん」
「俺らが話さなければ、ホントのままだよ」
「また、”ダビデ”してる」
「ダビデしてるんじゃなくて、ダビデ本人だから」

二人は家に向かって歩き出した。

【了】

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