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白鳥は必死に水を掻く

桜が散ってしまってもうすっかり緑。ヤマツツジが咲いている。しかし、この数日の雨と気温のせいで山のてっぺんには雪。信じられないけれど新緑の向こうに雪山って美しい。

来週はバイオリン教室の発表会である。私はヴィオラを教えてもらっているが、先生は本当はプロのバイオリニストである。だから、私以外の人は全員バイオリンを習いにきている。


私は今回サンサーンスの「白鳥」を弾く。オーケストラの団員なので普段一人で弾くことなどないものだから独奏だなんて鼻血が出そうである。

そして自分の演奏にピアノ伴奏がつくこともないのでこれまた新鮮である。ピアノと弾くならもう少し高い音で、とかここはもう少し低い音で、という先生の教えも普段はないことなので戸惑う。(弦楽器はピアノのように明確にここを押さえれば誰でも同じ音が出る訳ではないので押さえる場所によって同じ音、例えば「ド」でも高くなったり低くなったりするのだ)

それから立って弾くのも滅多にない。オーケストラだから大抵は座っているのだ。立って弾くとフワフワする。先生から「靴の踵に五円玉を入れてそれを踏んで演奏するとしっかりしますよ」と言われた。そんなことあるのか、と半信半疑だが五円玉の準備はすでに終えている。

この間、初めてピアノの先生と音を合わせた。初対面の人とばっちり音楽を合わせるというのはお互いの様子を見ながら探っていくのでとてもおもしろい。が、それはオーケストラの時の話。自分の演奏にピアノの伴奏を合わせていただくというのは不思議な気持ちである。ヴィオラという楽器の役割のせいもあるが周りを支え、周りを活かし、周りに合わせるのが常なので「いいんですか、合わせてもらっちゃって」という気持ちになるのだ。だが、気持ちよい。ものすごく贅沢なカラオケをしている気持ち。あがり症の私だが楽しさの方が勝った。

マイナー弦楽器のヴィオラ、個人のバイオリン教室の生徒さんたちはその音をほとんど聴いたことがない。聴いたところでヴィオラだとわかる人も少ない。しかし、バイオリンより大きいのでびっくりぐらい大きな音がするし、低音がどっしり響く。今度の発表会では私の音を聴いてもらう訳ではない。ヴィオラの音を聴いてもらおう。ヴィオラ普及活動の一環だ。そう思ったらちょっと気が軽くなった。

私の「白鳥」は優雅に湖を進むのだ。間違っても必死に足で漕いでるなんて悟られてはいけない。だからあと一週間、誰も見ていない今のうちに全力で漕いでみることにする。だって私のヴィオラは最高にいい音がするのだからそれを皆さんに聴いていただかないともったいないではないか。

では、また。ごきげんよう。