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ブラウニー

今週は娘がバレンタインデーのためにお菓子を作った。ホットケーキミックスとチョコレート、胡桃を混ぜたブラウニーだという。その材料じゃあチョコレートホットケーキだろうと思ったけれど、そういうことを言うと彼女の機嫌を損ねるのは目に見えていたので黙っていた。

案の定娘の思うブラウニーにはならず、大量のチョコレートホットケーキの山を前に泣く始末。夫は「こんなにあるんだからこれを持っていけばいいじゃないか、おいしいんだから」と言う。乙女心がわかっていない塩を塗る発言である。お菓子作りの得意な友達から連日もらう見た目も味も素敵なチョコレートやお菓子。あれと比べたらがっかりする出来なのに「もったいない」を理由に不本意な出来のものを持っていくなんて辛い。こんな時、大人は黙って三日三晩チョコレートホットケーキを食べてやればいいのである。

また明日にして今日はもう寝たら、と言おうとした矢先、彼女はこれから全部作り直すと言う。夫は不機嫌である。息子は不穏な空気を察知して自分の部屋に行った。私はこの空気を破りたくて、もう一度同じレシピで作ってもブラウニーにはならないし、時間もないからブラウニーミックスを使ったらどう?と言って場を収めた。

もう失敗したくなかったのだろう。ミックス粉を使ったブラウニーの出来上がりは彼女が小さい頃から食べ慣れているものになった。当たり前である。言われた通りに作ったら絶対ブラウニーになるというアメリカのミックス粉は我が家で20年間常に買い置きしているものだったのだ。

3時間ほど寝た娘は起きてすぐ冷ましておいたブラウニーを包装し、学校へ行った。無事部活の先輩や親しい友人たちに渡したようだ。

自分の思った通りにできなかったりすると泣くところは小さい頃から変わっていないんだなあ、と思った。そう言えば私が適当にアンパンマンの歌を歌ったりすると泣いていちいち訂正していたっけ。そう言うところは父親によく似ている。彼は泣いたりしないが。

そんな彼女も今週、16歳になった。誕生日の朝にはラインがたくさん来たり、バレンタインデーのために作るお菓子が1日では作れないところを見ると友達は多そうだ。行動範囲も広がって、親が把握できることなんてきっとそう多くないのだろう。言い古されたことだけれど、「あんなに小さかった子がこんなに大きくなって」と思う。

してやれることはどんどん少なくなってきた。せいぜい運動をして、あと少しの間は失敗作のホットケーキを食べてやれるだけの体力を維持するぐらいしかもうない。

では、また。ごきげんよう。