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60歳がくる!

ここ数年の髪型は、いわゆる“マンバンヘア”というやつで、サイドとバックを借り上げるスタイル。今は2mmでやっているのだけど、髪の毛が伸びるスピードって驚くほど早い。2週間もするとぼさぼさしたみっともない感じになってしまう。

以前は妻にバリカンで刈ってもらっていたが、使い終わった後のメンテとかけっこう手間がかかるので申し訳ないし、かといって自分ひとりで刈る勇気もない。超近所に1300円カットのチェーン店ができたタイミングで、妻の世話になるのはヤメにして、金で解決することにした。

この新興チェーン、自動販売機でチケットを前払いするシステムなのだが、この自販機に「美容師とおしゃべりしてもOK」というボタンと「おしゃべりナシでお願いします」というボタンがあるのだ(要約)。

いや、まあ短時間だからどっちでもいいのだけど、知らない人とおしゃべりするのが嫌いではないタイプなので、いつも「OK」のほうでチケットを買っている。働いている方は中年から初老の女性が中心。ときどき若い女子もいてワイワイ盛り上がったりする。なにせ2週にいっぺんと頻度が多いので。

さて。先週訪れた際の担当は、めずらしく初老の男性だった。この人に刈ってもらうのは初めて。大人しそうな方だったが、「髪の毛、長いですね。なんのお仕事されているんですか?」「うわー、サラサラですね~。トリートメントは何を使われているのですか?」などと矢継ぎ早に問いかけてくる。

「ありがとうございます~。何もやっていないんですよ」

「でも、この脱色した部分だけでもトリートメントしたほうがいいですよ~」

などと空疎なラリーを繰り返していたが、あまりにも髪の毛の話題で突っ走ろうとするのがだんだん億劫になってきて「いやぁ、もうすぐ60なので、トリートメントとかどうでもいいですよ」と話を断ち切った。

実際はまだ、55歳だけども。

するとそのおじさん「60ですか! 私も今年60です!」と生き生きと同世代トークを始めるのだ。「あ、僕はもう少し下ですけど…」という声をかき消すように「60にしては全然白髪ないですね。うらやましい!」「還暦って響き、重くていやですよね!」「最近なぜだか赤い服が増えてきました(一人で大笑い)」と畳みかけてくる。次第にこちらは愛想笑いを浮かべるだけで無言に……。

2週間後、あの店のドアを開けたときに今年で還暦おじさんが笑顔で会釈してきたら、初めて「おしゃべりNG」ボタンに手がかかるかもしれない。

なにはともあれ、あと4年チョイで60歳がくる。

#創作大賞2024 #エッセイ部門


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