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11月16日の日記:昨日見た眠れない夢について

 空が藍墨を流したように燻んでいる。私を囲む松や竹藪の影がその空へなお黒くくっきりと浮かぶ。日は落ちて行くのか、これから登るのか判然としない。私は生家の前の、朽ちかけた石塀と大きな岩とに囲まれた小さな庭に布団を敷いて女と横になっていた。私の家は神社の境内にあるので、竹や松や巨岩に囲まれているのだった。あたりはシンと静まり返り、音はしない。生家の方からもなんの気配もしない。境内は寒く、私は掛布をずりあげようとした。
 掛布はタオルケットと毛布と綿入れだった。私が子供の頃に愛用していた布団だ。タオルケットは擦り切れてぼろぼろになってしまっていいるが、抱き寄せるとくたびれたような、甘いような匂いがした。しかしどうにも寒い。布団をかき集めようとするが三枚がうまくまとまらない。私は眠りが浅く、寝相の悪い子供だったからよくこうして布団の中でもがいたものだ。日が昇ればマシだろうに、などと思う。しかしいったい今は何時なのだろう。女を起こそうとするが唸るばかりでダメだ。眠いようだが眠れない。また女を起こそうとするが唸り声ばかりだ。日も登らない。

 私が途方に暮れて天に眼をやると、傍の巨岩に灰色のコートを頭からかぶった女が立ってジッとこちらを覗きこんでいるのに気がついた。フードから僅かに覗いた鼻と口元で母だとわかった。私は気恥ずかしさから身を捩り、早く朝が来れば良いのにと思った。

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