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【音楽あれこれOp.9】 年末を100倍楽む。ホルスト作曲《組曲「惑星」》vol.2

いよいよ年の瀬。まだまだ先だな〜なんて思っていた2020年も、あっという間にもう目の前。来年はどんな年になるのか、わくわくしちゃう。

こんにちは、ライターの青竹です。前回は《惑星》全体の事を学びましたね。作品が占星術を基に作曲されている事、それぞれの作品が強い個性を持っている事などをオベンキョウしました。皆さん今日までに一曲ずつ聴いてくれましたか?まだ聴いてないという方は(なんて勿体ない...)、是非年末の大掃除中にでも聴いてみて下さいね!「土星」で掃除のペースが落ちそうですが。

今回はいよいよ「木星」です。惑星の組曲の中でも圧倒的知名度、圧倒的主人公感。平原綾香さん(1984-)が2003年に出した《Jupiter》も、この曲の人気の一因となっています。因みに平原綾香さんはこの曲がデビュー曲。そのうち「J-popに使われているクラシック曲」なんてテーマの記事を書いても面白そうだなぁ。

すみません少し話がそれました。

でも何故この「木星」という作品、こんなに人気があるのでしょう?今回は少し専門的になりますが、じっくり楽譜から紐解いてみましょう!(スマホで見て下さってる方々には楽譜が小さいかもしれません。指でブワッと拡大して見てください。)


楽譜から読み解く木星の魅力

まずこの作品は大きく3つの部分に分かれています。3つの主題が立て続けに現れる第1部。《Jupiter》でもお馴染みの有名なメロディーが出てくる第2部。そして一番最初の主題が戻ってくる第3部(再現部)、です。

まず第1部は1stヴァイオリン2ndヴァイオリンという二つのヴァイオリンパートの刻みから始まります。早速この刻みに聴衆を引き込む「技」が隠されています。

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この丸で囲んだ三音の音形。これが何度も繰り返され、また音の高さを変えて四つの声部に出てきます。

この部分の拍子は四分の二拍子、しかしこの音形の頭はその拍子とはずれています

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(上の赤線が正しい四分の二拍子の拍、下の青線が音形の頭の音に合わせた拍。)

この拍子とズレた三音の音形が、音の高さの違う各パートごとに更に一音ずつずらされて演奏される事によって、ハーモニーは不協和になりリズムに混沌が生まれ、それが高揚感を高める効果を生み出して聴衆は一気に曲へ引き込まれてしまうのです。

序奏で気持ちが高められた後、意気揚々と第一主題〜第三主題が出てきます。

まずは力強い第一主題ホルン*で演奏されます。

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その後重厚な、しかし推進力のある第二主題が今度はホルンと弦楽器勢(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)で、

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そして第三主題では拍子が三拍子になり、またホルンのみで始まります。

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いや、ホルストさん。

ホルン好きすぎない?笑

そうなんです、この曲はホルンが大活躍の曲なのです。これはホルスト自身も管楽器奏者(トロンボーン)だった影響かもしれないですね。

さてこの主題達が終わるといよいよ第2部、あのメロディーが出てきます。

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出たーこれこれ。この第二部の拍子は3拍子になり、メロディーはまたホルンと弦楽器勢で演奏されます。

でもなぜこのメロディーが我々の心を打つんでしょう?実はこのメロディーには「ヨナ抜き音階(音階の第4(ヨ)音、第7(ナ)音を抜いた音階)」というものが使われています。なんとこの音階、

日本の民謡で使われている音階と一緒

なんです。

「え、ホルストは日本の民謡の音階を使ったって事?」

いえ、そうではありません。この音階はスコットランド民謡にも使われている音階で、イギリス人のホルストはその音階を使用しました。しかしこの音階を使うことにより、日本人にもとっても親しみ深い印象を与える事になった訳です。

このメロディーはこの曲中で3回繰り返されますが、一回ずつ音域を上げ、参加する楽器も増やしながらクレッシェンドしていきます。この様に盛り上がり方も分かりやすく、聴衆は自ずと気分が高められる事になるんですね。

壮大な第2部が終わると第3部(再現部)になります。ここでは第1部で使われた主題(メロディー)達が転調を繰り返しながら出てきて、最後は華やかなフィナーレで幕を閉じます。


まとめ

さて、これで木星の分析は以上です。あのメロディーには日本人が好きになるあんな秘密(読み飛ばした人は戻って確認!)、が隠されていたんですねー。今回の内容を知ってジルベスターコンサートを聴けば、きっと更に面白いはず。是非観て聴いて、楽しんでくださいね。

今回は楽譜を見ながらの分析で、少し難しい内容になってしまいましたが、如何でしたでしょうか?作曲家たちはこの「木星」の様に楽譜の中に様々なトリックを仕掛けています。それを読み解く事は、さながらミステリーを読んだり暗号を解いたりする様でとっても楽しいです。

来年も皆さまと共に、音楽の沢山のトリックを解決して行けたらなぁと思っています。

それでは皆さん

良いお年を〜!


*ホルンは「移調楽器」と呼ばれる楽器の為、楽譜に書いてある音と実際に出る音が違います。今回の木星では「F管」という物が使われていて、楽譜上の「ド」の音を出すと、実際には「ファ」の音が鳴ります。楽譜を読むのがちょっと大変ですね。


コロンスタジオライティング部

ライター:青竹(Twitter: BWV_1080)



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