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【小説】華森京香の独言③青い糸

角谷さん、貴方は身を焦がすほどの恋ってしたことあるかしら。脳の思考回路が焼ききれそうなほど、人に愛情を注ごうとしたことが。

私はね、実はあるの。その人のことが、好きで好きでたまらない気持ちだった。その人のためだったら、何でもしようと思ったわ。風邪を引いたらお見舞いに行ったし、一緒に遊びに行こうと言われたら何処にだって飛んで行った。それが、朝でも昼でも夜でも関係なく。私はね、その人に夢中だったの。 

でも、私の恋は叶わなかった。その人は、恋人が出来たって私の前ではしゃいでいたもの。私はその時、笑顔で祝福するしかなかったわ。いいえ、きっと、笑えてなんていなかったでしょうね。もっと歪で、酷い顔をしていたはずよ。わかるもの。私の中には、嵐が吹きすさんでいた。

だから私、その人を呪ったの。「どうか失恋しますように。」って。角谷さんは「青い糸」の話をご存じかしら。私の学校で流行っていたおまじないよ。

そのおまじないは簡単に出来た。自分の小指に青い糸を結んで好きな人の失恋を祈り、その糸を細かく切るの。これが、効果てき面。失恋を祈られた人間は、必ず恋人と別れたり、振られたりするの。すごいわよね。ただ、青い糸を小指に結んだだけだっていうのに。

私もね、それをやったことがあるの。青い糸を小指に結んで、「どうかあの人が失恋し、泣き叫んで滅茶苦茶になってしまいますように」と願った。小指に結んだ糸を切り刻みながら、ひたすらに願った。

そして、それは叶った。あの人は、大切にしていた恋人に捨てられた。私は最初、驚いたわ。まさか本当に叶うとは思わなかったから。

あの人は泣いていた。泣いて、泣いて、泣き叫んで、苦しんでいた。でも、私はそれが嬉しかった。私を選ばなかった貴方が悪いのよ、なんてほくそ笑んでいた。ぞくぞくしていた。

でもね、やっぱり、呪いは呪い。角谷さんも知っているでしょう。「人を呪わば穴二つ」って言葉。呪いは私に返ってきた。

あの人ね、死んじゃったの。失恋を苦にして手首を切ったって。私が思うよりも、あの人は恋人の事を愛していた。愛していたからこそ、死んでしまった。私は、自分の行いがいかに恐ろしい事だったのか、そこでようやっと気が付いた。

私が呪ったからあの人は死んだ。私はそう思う。たまたまだとか、気のせいだとか、そんなものではない。私は確かに感じたの。青い糸を小指に結んだとき、「この呪いは必ず成就する」と。

だけど呪いの代償として、私の恋は永遠に叶わなくなったのよ。ねえ、私は変なのかしら。未だに、死んでしまった人を好きでい続けるなんて。だけど、それが呪いなのよね。呪いは永遠に、私に付き纏う。私は永遠に「あの人が好き」という気持ちを忘れられないし、「あの人に正面きって好きだと伝えなかった事」を後悔し続ける。これが私の咎。

角谷さん。貴方もこれから、憎むほどの恋をしたらいいわ。それはきっと楽しくて、苦しくて、気持ちが良いものよ。きっと、どんな快楽にも勝るもの。

もし角谷さんに好きな人が出来たら、教えて頂戴ね。私が代わりに、貴方とその人を赤い糸で結んであげるから。あら、だって私は呪われてるんですもの、誰かを幸せにする行いをして、少しでも徳を積んでおかなくちゃあきっと天国には行けないわ。

だから結ばせてね。貴方の赤い糸。

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