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中坊まさひろPart2          2012年10月26日

~私は他のメンバーと競技場の外周通路から競技場に入った。
「オー、凄いな」
フィールドに出ると、緑の芝生と煉瓦色の400mトラックが視界に広がった。トラックを囲むように客席がある。それも満席だ。その風景に完全に飲まれていた。
レースごとにスタートの一瞬の沈黙から、一気に歓声、女子の悲鳴などに包まれる。
「オリンピックはもっと凄いんだろうな」

リレーの練習
リレーの練習が放課後に始まった。正式な陸上競技などやったことはないので、短距離用のスパイクシューズなど持ってない。そこで学校にあるスパイクを使うことになった。サイズはあるが古いし、傷んでいる。さらに臭い。私は足のサイズが小さいので比較的傷みのない、臭くないスパイクを借りる事が出来た。ただ他のメンバーはそうでもなく、中には水虫になったやつもいた。
ちなみに当時の男子運動部員は不潔だった。「インキン、タムシ、水虫」と菌類は運動部のお友達だった。

さて、実はリレーで走る距離は一人100m、400mリレーなのだ。これには参った、つまり100mを走る場合、50m走と違い、勢いとか小手先のテクニックではいいタイムはでないのだ。きちんと陸上の練習を積み上げて、なおかつ素質があってこそタイムはでる。
取りあえず各自の100mのタイムを測定する。その結果は皆余り良くない。基本的にフォームが悪いし、筋力も不足している。とは言え出走順番を決める必要があり、私が第一走となった。
「ストレスだなぁ」

これは体育教師コバヤシの嫌がらせかと思ったが、アイウエオ順みたいだった。
スパイクを履いての練習。私は一走なので、クラウチングからのスタートダッシュを何本か行った。これは本職のサッカーより筋肉的にきつい練習だ。
しかし私は逃げなかった。周りの練習メンバー、先輩も含めて、それなりに怖い奴らだったので、簡単には抜けられない。陸練でへとへとなり、サッカーの部活もその後に参加していたので、帰宅後、完全に私は死んでいた。
そんな地獄の日々が続き、ついに、大会当日となってしまった。私は練習が悪い方向に向き、疲労と筋肉痛で絶不調である。

駒沢競技場は凄かった
駒沢競技場へ到着して、私はびっくりした。競技場が満席なのだ。かつ応援が凄い状況だ。
「これは、とんでもないなあ、本当にやばい」
私達が参加する陸上競技会は、世田谷区の公立中学校の全体陸上競技会であり、狭い地域でのプライドと意地が各学校をヒートアップさせている。
ここで上位に入っても、それ以上の大会参加資格が得られるわけではなのだが、隣の学校には負けられないのだ。
それに比べ、私達は都立の付属中学校。知名度もなく、ライバル視されることもない弱小中学校。一学年2クラス。他校は6クラスくらいある。層が厚いので、代表者のレベルも高い、おそらく勝負にならないだろう。

まずいパンツが
飛んで火にいる夏の虫状態、私は完全に舞い上がっていた。
ともかく着替えて、競技場の周りの公園でウォーミングアップをしていたときだ。陸上のトランクスなど持ってないからサッカー用のナイロン製の短パンを使っていたのだが、これでスタート練習をしたとたん。「ビリ」とおしりの方が裂けた。格好つけて小さめの短パンをはいていたのがまずかった。ナイロンは伸びないので、縫い目から裂けたようだ。
よりによって、こんなタイミングで起こるとは、ついてない。サポーターの海パンが丸見えだ。しかし、もうスタートコールがかかっている。行かなくては。

スタートとは覚えてない
私は他のメンバーと競技場の外周通路から競技場に入った。
「オー、凄いな」
フィールドに出ると、緑の芝生と煉瓦色の400mトラックが視界に広がった。トラックを囲むように客席がある。それも満席だ。その風景に完全に飲まれていた。
レースごとにスタートの一瞬の沈黙から、一気に歓声、女子の悲鳴などに包まれる。
「オリンピックはもっと凄いんだろうな」
尻に手をあてたたまま、私は立ち尽くしていた。しかし所詮、全員中学生だ。皆舞い上がっていて、私の尻に気づくようなやつはいない。

私は開き直って、レースに集中する。予選3組、8レーンスタート、アウト側だ。私は短パンから赤い海パンを見せて、クラウチングスタイルを取る。
「ばーん!」ピストルがなる。
アウト側スタートだから前に人は見えない、しかし、逃げはきつい。徐々に内側のコースの選手が見え始めてきた。最後は背中が見えた。つまり自分は遅いのだ。ともかく必至にバトンを渡す。5位だ。
後は一瞬に終わった。他の選手の走りはあっと言う間だった。結果6位、予選通過は2位までだから、これで私の役目は終わりだ。
「また、こんなところで走る機会があるのかな」
私は高揚した気分49%、惨めな気分51%でトラックから出ていった。

突然女の子が話しかけてきた
友達と二人で、だらだらと自分らの席に戻っていた時だ。
「すみません、世田工付属の人?」
声の方向に顔を向けると、他校の女子二人がいた。
「俺?」
「そう」
「選手ですか、すごいですね」
そうかゼッケンをつけているし、凄いのか、カッコイイんだ私は。
「あの、今日、走っていると思うのですが、サッカー部のAさんを知っていますか?」
「俺、サッカー部」
「えーっ本当」えーを伸ばすな。そして二人の内の一人がもじもじし出す。もじもじ女が、
「これを渡してもらえます」手紙を差し出してきた。
私の走りがカッコイイから声をかけたのではなく、メッセンジャーボーイとして声をかけてきたのだ。
しかし、工業系の学校ため、同期には女子が二人しかいない、まさに男子校の私は女子に耐性がなく、「いいよ」と言っていた。
恥ずかしい限りである。そしてパンツの穴を急に思い出し。穴を見せないようにカニ歩きで、
「じゃあー」とその場を去っていったのだった。
しまらない結末ではあった。

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*FBに100本以上あるノートから転載している


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