新田樹 Sakhalin


かつて日本統治下において樺太とよばれた大地に今を生きる人の姿を収めた写真集『Sakhalin』。過酷な背景を背負いながらも生きる人々の姿が収められた写真と、被写体にためらいながらもそっと寄り添っていこうとする写真家の言葉が綴られている。

戦争に翻弄され自分が望む大地で生きることが困難だった女性たちの葛藤や怒り、悲しみを思い、自らが日本人であるということを問い返さずにはいられない。たしかにこの写真集に収められた写真は、戦争とその痕跡を明らかにしてくれる。

ただ、展覧会場を見渡していると不思議と心に温かさが広がっていく。金公珠さんの面倒見のいい温かさ、初子さんの少し意外な男気、富子さんの聡明さとやさしさを感じる。精悍なまなざし、やわらかなほほ笑み、寂しげな瞳のうつろい、語られた言葉たちから、私は彼女たちが長い時を費やして紡いだ物語を読み解き、私は彼女たちを誰一人として知らないけれども、、彼女たちに出会うことが出来た。

素敵な人たちに出会える展覧会でした。

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