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扇風機がもたらす幸せ(717文字)

ベトナムは暑い国だった。

日本も異常な暑さだったし、湿度も体感的にはそう変わらない気がした。とは言え、勝手の分からない旅先で暑さは体力を奪い、すぐに疲れと汗でヘロヘロでドロドロになる。

日本と比べるとベトナムでは屋内であってもエアコンが効いていないところも多い。そんな中、ヘロヘロドロドロになった体に扇風機の風は強力な体力回復ツールになった。

扇風機は至る所に設置されていた。レストラン、カフェ、ショップ、博物館、寺院の本堂や世界遺産等々。空気自体は冷えていなくても、風に当たると体感温度は下がる。業務用の大型扇風機も多く、大活躍だった。旅行者が扇風機の前に陣取って涼む姿は当然の光景。風が欲しくて、横から遠慮がちに風のお裾分けをもらいにいったこともしばしば。

観光地では半屋外や、ほぼ屋外であっても大きな扇風機が設置されていたし、驚いたのは旧市街の道路脇の歩道でも扇風機を回しているお店が多いこと。

歩道にはたくさんの食堂や軒下で揚げ物を作って販売するお店が小さな椅子や台を並べていて、手軽に食べることが出来るようになっている。エアコンのない店内より風が通る屋外の方が涼しいのかもしれない。比較の問題で。そんなお客さん用に、そして軒下でスマホを見ながらお客さんを待つ店主用に、狭くて歩行者がまっすぐに歩けない歩道でも扇風機が勢いよく風を送っている。その合間を縫うように歩く歩行者もまた、その風の恩恵に預かる。大変ありがたい。

そんな歩道を歩きながら思った。猛暑の夏にエアコンは神。でも扇風機も頑張っているなぁと。そして扇風機の風に当たりながら、路上でコップ一杯のお茶とお喋りを楽しむ人たちがなんと幸せそうなことか。寛いだその表情が印象的だった。


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