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マシュマロの音 ー 反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ(701文字)

演奏が始まると木管や弦楽器の音が舞台の上にふわっと現れた。まるでパステルカラーのマシュマロが雲のように形を変えながら泳いでいるようだった。

友人に誘ってもらい、反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ コンサートに行った。あまり詳しくなかったので、どんな音楽だろうと期待して開演を待った。拍手と共にオーケストラのメンバーと、続いて指揮の反田恭平さんが登壇。すぐに演奏が始まった。

衝撃的で、かつ不思議な感覚に囚われた。音が優しい。管も弦も、それらが合わさってさらにまろやかになってホールをやんわりと包み、あっという間に聴衆は反田さんの世界に引き込まれた。

指揮もまた目を引いた。手のひらがひらひらと、蝶が舞うように絶えず滑らかに動いていた。そして時には鋭い動きと共に二階席まで唸るような息づかいが聞こえてきた。

コンサートマスターをはじめ弦楽メンバーの動きも音楽の迫力を視覚的に盛り立てた。立ち上がったのかと思わせるほどの演奏は、腕や指で弾いているのではない。身体全体で奏でていることを証明していた。

全身で導く指揮と、時にはふわふわと心地よい、または地底から突き上げるような、更には曇りのないクリスタルのようにストレートに響く音楽。ピアノの鍵盤をコロコロと軽やかに小人たちが踊り出したかと思えば、力強い低音が地響きのようにやってくる。

指揮者から感性を受け取り、その感性を音に変えているような演奏会だった。

自分が弾くバイオリンの音のなんと貧相なことよ。知ってはいたけれども。月とスッポン。雲と泥。それでも、ほんの1ミリでもマシュマロの音に近づけるように…そんなモチベーションをプレゼントしてもらった夜だった。

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