見出し画像

「使えない女」と「時間外の打ち合わせでも嫌な顔一つせずに応じる仕事の出来る男」、そんなことを思って苦しくなった。私は一日一日を必死に生きています。(石)

「大変さ」を美談にしないで 仕事と育児、変わらぬ男女の役割分担 新型コロナ禍の生活つづった長野の女性(信濃毎日2022年3月8日)

「やばい。6時に間に合わない。」
出張先からの帰り道、私は助手席で、1人焦っていました。
小学2年生の子どもを放課後に預けている児童センターは6時で終わりです。
「どうしよう。どうしよう。」「どうしよう。どうしよう。」

5時を過ぎた時点で、私は同乗している同僚に助けを求めるように言いました。
「児童センター、6時までなんです。」
運転中の同僚は、驚きつつも「スピード出して行きますね。」と優しく対応してくれます。同乗している他の同僚も私を責める人は誰もいません。
誰1人私を責める人はいませんが、「すみません。会議の終わり時間を甘くみてました。」「すみません。事前に母にお願いしておけば良かったのに。」「申し訳ないです。本当に。」などと連発している自分。
そのとき、ふと、夫の存在を思い出しました。
児童センターから徒歩10分のところに勤務しています。
急いで電話をかけました。
私:「出張先から間に合いそうにない。児童センターにお迎えに行って、家に置いてまた仕事に行って大丈夫だから、仕事抜け出して迎えに行けない?」
夫:「打ち合わせが入ってるから無理だよ。」
私:「あ、分かった。」
怒りもしないし、失望もしません。しないことにしています。疲れるので。
共に子育てをしたい、と思っていた頃は、怒りや失望で、気が狂いそうでした。
でもあるときから、やめました。疲れるので。期待しなければ、怒りも失望もないのです。

同僚は可能な限りスピードを出して運転しています。
怒らない、失望しないことにしているけど、やっぱり、心の底に無理矢理沈めてある感情が、抑えきれません。「自分は余裕あるときだけ手伝えばいい、ってその立ち位置、なんなんだ。」「自分が同僚に頭下げて、打ち合わせの時間をずらしてもらうとか、そういう努力しないのかよ。」「自分だけ、同僚に迷惑かけない出来るヤツの立ち位置キープしやがって。」
そんな気持ちを再び心の底に沈めるため、私は、ネタとして夫の文句を披露して同僚を笑わせました。笑いがとれると少し気持ちが楽になる。そして「すみません」「すみません」と頭を下げ続ける。

スピードを出してくれたけれど、もう間に合わない。5時50分、私は、児童センターに電話をかけました。「先生、大変申し訳ないのですが、渋滞に巻き込まれて6時に間に合いません。10分か15分くらい遅れそうです。」声が震えていて自分でも驚きました。「お母さん、大丈夫ですよ。安全運転で来てください。」その一言に涙が出そうでした。
同僚にあれやこれやの無理をしてもらい、何とか6時15分に児童センターに到着。「すみませんでした。」「すみませんでした。」平謝りし続ける私。
小学2年生の子どもを拾って、6時半までの保育園に直行。ギリギリ滑り込みセーフ。

自宅へ戻ってやれやれ一息つきますか。ビールでも。とはいきません。
夕ご飯を作ってお風呂を洗って、食べさせ風呂に入れ、「宿題やったか」と世話をやき、「たたいちゃいけない。」と兄弟げんかを仲裁し、歯磨きしてね、トイレ行ってね、と何度も言い、1人で怖くて行けないというのでトイレについて行き、ハイテンションで遊んでいる子どもを捕まえて順番に仕上げ磨きをし、はっと気がついたら「やばいこんな時間だ、明日の朝起きられない。」と急に焦り、布団の上で飛び跳ねている子どもに「いい加減に布団に入れ!」と思わず大声を出してしまい、ああ、怒鳴ってしまったと思って、取り繕うように、絵本を1冊だけ読んであげたけど、読み終わったらこんな遅くなってしまい、やっぱり絵本はやめておくべきだったな、などと後悔しながら、やっと子どもを寝かせる。

ああ。疲れた。
私、今日、何回「すみません。」と言っただろう。
疲れのせいだろうか、「子育て中の女はやっぱり使えない。」と、自分で自分を責めている。そういう自分を、「そんなことを思うなんて、おまえの中に子育て中の女性に対する偏見がある証拠だ。」と再び自分が責めてくる。
夫は、お迎えに行けなかったこと、なんて思っているだろう。
「申し訳なかった。」って思っているんだろうか。それとも「遅くなるって分かっているなら何で事前に頼まなかったんだ。」って思ってるだろうか。などと夫の気持ちをあれこれ考えてみたが、おそらく何にも思っていない。私から電話があったことすらもう覚えていないだろう。
「使えない女」と「時間外の打ち合わせでも嫌な顔一つせずに応じる仕事の出来る男」
そんなことを思って苦しくなった。
今日も夫が帰宅するのは深夜だ。
今日の出来事を話してみたいが週末にならなければ、夫と会話する時間もない。でも週末まで持ち越して話すような内容でもない。こうして今日のことは無かったことになっていく。いつもその繰り返しだ。

夫の人柄のせいばかりではないだろう。
夫を解放してもらいたい。
毎日深夜まで働かせられる。そんな働き方っておかしくないですか。
働き方改革っていうなら、5時に身柄を解放してください。

コロナで家族の絆が深まったとか、吐き気がします。
休校中も学校が始まってからも、私の負担は増えるばかりです。
「日本、がんばろう」とか聞きたくもありません。
これ以上、頑張れねえよ。それが率直な思いです。
頑張れば報われる、そんな考え方に支配され苦しんできました。
さいきん、それにやっと気がつきました。

私は一日一日を必死に生きています。

                       石

画像1




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?