「コロナ禍の生活綴方」(ほおずき書籍)から「発行にあたって」
「コロナと暮らし実行委員会」は、長野県在住、出身の女性や母親、学生、弁護士、社会運動関係者などによる実行委員会です。昨年、2020年秋に計画したコロナと暮らしを考えるシンポジウムを、コロナ禍により延期としました。その代わりに直面している現実や思いを文章や絵につづることにし、知り合いなどにも呼びかけました。
コロナ禍の「非常時」のもとでのテレビやインターネットの喧騒、こうした喧騒のもとに埋もれた切実な声や実態があるのではないか、この空白を埋めたいと思ったことが、「コロナ禍の生活綴方」をはじめたきっかけです。
「友人らとの当たり前の日常がなくなってつらい」とつづった大学生は、生活綴方の持つ力について、こう語っています。「生活綴方は生活に起こったことや五感からの刺激、感情を『見つめる』ことを必要とする。見つめて、記す。たったこれだけである。この『見つめる』行為が生活綴方の中心だ。そこに他人の視点は存在しない。自分に素直にならないと生活綴方は書けない。生活綴方は決して五感や感情を無視しない。むしろ歓迎し、回復や前進につなげる。コロナ禍の生活の変動や政治の無策失策からの回復に生活綴方は最高の手段だ」。
生活綴方、生活画(自由画、想画)は、ありのままの生活と自己を見つめ、感じていることを、文章や絵で表現することです。大正時代に始まり、手本を書き写すだけだった作文や図画の授業に新風を吹き込みました。昭和にかけて盛んになり、戦後も実践されました。1950年代には、農村や工場の青年、家庭の主婦の間で、生活をありのままに書き、仲間で読み合い、新しい生き方を話し合う生活記録運動が、全国各地に広がりました。
南米チリでは、1973年から90年まで続いたピノチェト大統領の軍事独裁政権により、家族を奪われた女性たちが中心となり、自国の現状を世界に訴えるアルピジェラというパッチワークが広がりました。女性たちは共同作業で、アルピジェラを作りました。バラバラにされた生活をパッチワークで復元し、つなぎあわせることで癒され、生産と収入の場だけでなく、発言の場となり、生きている実感を与え、独裁政治に立ち向かう力となりました。
コロナ禍で、いや、その前からすでにそうだったかもしれませんが、私たちのバラバラにされた生活が、こうして本になったことでつなぎあわさりました。この本を読んでいただいたみなさんのところで、生活を記録し、読みあって、より良く、より人間らしく生きようと話し合う場が、広がっていけばいいなと思っています。
信濃毎日新聞で紹介いただきました
「大変さ」を美談にしないで 仕事と育児、変わらぬ男女の役割分担 新型コロナ禍の生活つづった長野の女性(信濃毎日3月8日第一社会面)
まちかどから訴える平和(信濃毎日3月5日コラム斜面)
書店やインターネット書店で取り扱っています
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