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論文集『食の文明論』を紹介します

写真:左:ウガンダの宴会風景、右:セイウチに銛を打ち込む(本書より)

 今では「食文化」「食の文化」などの言葉が、あちこちで広く使われています。
 でも、こうしたことが普通になったのは、それほど古いことではありません。
 1980年2月16日に東京のホテル・オークラで開催された味の素(株)主催の「食の文化シンポジウム80:人間・たべもの・文化」あたり以後のことだと思います。

 その成果を記録した書物の冒頭で石毛直道(国立民族学博物館元館長、同名誉教授)さんが、
 「食べることは文化でもあります」
 と言い放っています。

 これが契機となって9年後の1989年4月、(公財)味の素食の文化センターが設立されました。で、毎年「食の文化フォーラム」が開催されてきました。

 それに伴って徐々に、
 「食を文化として捉え直す」
 という風潮が広く人々の間に広がってきたといっていいでしょう。

 そんな流れの端緒を切り開いた1980年という時期から40年目が到来することを記念して、2019年度から「食の人類史」をテーマに、3年間にわたる「食の文化フォーラム」が実施されることになりました。

 その初年度のテーマは「食資源の開発」です。

 が、その年度の終わりに新型コロナの流行が本格化しました。以来1年余り、ようやくその成果を記録した単行本が完成し、味の素食の文化センターの企画のもと、本年3月30日に公刊されました。

 その表題は、池谷和信(編)『フォーラム 人間の食 第1巻 食の文明論:ホモ・サピエンス史から探る』農山漁村文化協会です。

『食の文明論』表紙

 かなりの大部ですが、その目次を紹介しておきます。

 ◆ 時空をまたぐ食の世界:まえがきに代えて……池谷和信
 ◆ 序章 地球・食・文明……池谷和信
 ◎ カラー企画 写真で見る「地球の食」……森枝卓士・池谷和信第Ⅰ部

第Ⅰ部 食資源の開発史
第1章 狩猟採集民の食:先史からから現在まで……池谷和信
 〈コラム1〉北極海での海獣狩猟と食:チェクチの事例……関野吉晴
第2章 牧畜民の食:ステップ地域を中心に……石井智美
第3章 農耕民の食:日本を中心に……原田信男
 〈コラム2〉トウガラシの伝播と文化史
第4章 都市民の食:日本を中心に……髙田公理
〈コラム3〉食はアレッポにあり:世界最古の都市における美味追求……黒木 
     英充

第Ⅱ部 食の技術と食事空間
第5章 人類は何を食べてきたのか:生物多様性の視点から……落合雪野
第6章 調理と料理:江戸時代~明治時代以降を中心に……江原絢子
 〈コラム4〉バンコクの「タイ料理店」の誕生とその変遷……前川健一
第7章 キッチン空間史:貯蔵・調理・加工・片づけが食文化を変える……林憲吾・村松伸・土谷貞雄
 〈コラム5〉変わりつつある日本の調理・食事空間:外食・中食・内食…… 
      印南俊秀
第8章 食事と社会:誰とどこでどのように食べるのか?……杉村和彦
 〈コラム6〉神話知のなかの食物と共食:古代日本の事例……上野誠

第Ⅲ部 食と現代社会
第9章 拡大する人類集団の肉食:人新世の消費の行方……野林厚志
第10章 人類の栄養適応:腸内細菌はどう寄与したか……梅崎昌裕
  〈コラム7〉食物摂取と疾病:歴史的に概観する……松村康弘
第11章 保存することとインスタント食品……森枝卓士
  〈コラム8〉不老不死とリビドーと:ナマコの磁力……赤嶺淳
第12章 食とコミュニケーションの進化……山極寿一

◆ 総括 現代文明と食……池谷和信
◎ カラー企画 地図で見る「地球の食」……池谷和信

 そういうわけで、ずいぶん内容が豊かな本になりました。ごく一部、ボクも執筆原稿(第4章 都市民の食:日本を中心に)を寄稿しています。

 現代の世界と日本を見渡して「食の文明」を概観するという挑戦的な試みを是非ご覧ください。

 なお、やや高価な本ですから、お勤めの大学や研究機関、地域の図書館などへの購入依頼をお出しいただくのもありがたいかなと思います。

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