見出し画像

48. 眠りのなかで目覚める夢の力

             (図像「悪魔のトリル」:enWikipediaより)

 現代日本では、というと「将来、実現したい願い」を意味することが多くなった。これはちょっともったいないような気がする。

 では、何がもったいないのか。
 毎夜、かりに7時間、眠るとする。その間、人は4、5回に分けて90分ぐらいは夢を見ているようだ。
 まず、寝入ったあと本格的な眠りに移るころ、色つきの光や幾何学模様が現れる。そのうちに人の顔、空を真っ赤に染める夕陽、燦々と陽の光が降り注ぐ林や野原が見えたりする。
 
 その後、眠りは深くなる。が、やがて筋肉が緩み、体は動かないのに眼球だけが急速に動き始める。そんな眠りを「REM(急速眼球運動)睡眠」という。このとき人は夢を見るのだ。
 内容は実にさまざまだ。たとえば『万葉集』に、こんな歌がある。

   摺り衣着りと夢に見つ現にはいづれの人の言か繁けむ

 「摺り衣」は草木染めのおしゃれ着である。当時「夢で着物を着る」のは男女が睦まじくなる前兆だと考えられた。この歌は、だから「そんな危うい関係になるお相手はどなた?」と恋の予感を歌い上げているのだ。

 歌だけではない。18世紀イタリアの作曲家ジュゼッペ・タルティーニは、ある夜、悪魔がみごとにバイオリンを演奏する夢を見た。その曲の余りの美しさに、目覚めてすぐメロディを楽譜に書き留める。バイオリン・ソナタ・ト短調「悪魔のトリル」は、こうして作曲された。

こんな例は芸術の世界のほか、科学の新発見などにもたくさんある。目覚めているとき に一所懸命、考えたり感じたりしていることが眠っているときに見る夢のなかで一挙に解決されたり、素晴らしい創造に昇華されたり……。夢にはそんな力が備わっているのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?