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140字小説

老人は、そのそば畑を愛していた。
若い頃苦労して開いた畑であった。花の頃は山の畑が一面、雪のように白くなる。その光景は、何度見ても美しい。
秋、仲買人がやって来る。
「今年の出来も格別だな爺さん。江戸ではあんたのそばが評判だぜ」
老人は土に汚れた指を弄って呟く。「江戸の奴らが何知って」

仲の良さそうな母子とすれ違う。「それでね、ママ」繋いだ手。おしゃまな口調。女の子のポニーテールが揺れる。私は思い出す。育てられず養子に出した私の娘もあの位の年だ。元気だろうか。
あたしは振り返った。さっきすれ違った女の人。とても綺麗な人だった。あたしも、あんな綺麗な人になりたいな。

「新聞?」妻が聞く。「うん」私は答える。情報収集は大切だ。「どうしたの、首相の名前も知らない人が!」驚いた妻は言った。「あっ!ゆう君、中身宇宙人に取り換えられたんでしょ~!」「バカな!」私は席を立つ。
驚いて尻尾が出るかと思った、危ない。報告書に書こう。『人間の雌は鋭いので注意』



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