梅が咲いた日
暖冬だと言われていたのに、ここしばらくかなり寒い日が続いていた。それでも今年は新年が明けるころから、ぽちぽちと目につくようなつぼみがあったことは確か。ついに昨日の朝、咲いているのを見つけた。梅の花が咲いたのだ。
毎年1月の末から2月の初めに庭の梅の木の花が開く。こねこが目を覚ますかのように、そして「ぽっ」と音を立てるかのように。その小ささにも関わらず、心を温めるのには絶大な効果を持つ梅の花。「寒い中ようがんばったね〜」そう声をかけたくなる。
春を待ち望む日本人にとって、梅は慈しみ愛されて古くから歌に詠まれてきた。有名な歌として浮かぶのはこれだ。
「東風吹かば にほひおこせよ梅の花 あるじなくとも春な忘れそ」
菅原道真
係り結びの法則…なつかしい。菅家の辞世の歌…道真に寄り添った優しい梅の花として思い出す。
梅花、梅の香、散り行く梅の花…、遠い昔から数多くの梅を詠んだ和歌がある。万葉集の頃は桜を詠むより梅を歌にする方がはるかに多かったそう。
ぽつん、と小さく、少し淋しく、それでも春に向かってささやかな希望を抱いている歌…そんな今の自分に寄り添ってくれる短歌はないかな、と探してみた。
「 梅の花 さやかに白く 空蒼く つちはしめりて 園しづかなり 」
伊藤左千夫
(意味:梅の花が白くはっきりと見えており、空は青く、土は湿っていて梅の園は静かである。)
伊藤左千夫氏と言えば『野菊の墓』の作者ではないか。正岡子規の門下生だったことも初めて知った。梅の花と静けさ、そして空の青さ…わたしの感じたことがこの歌にあった。
小さな梅の花の開花が、百年、千年の年月を超えて、人にもたらしたさまざまな想いに、それを詠んだ歌に目を向ける機会を与えてくれた。いにしえからこの小さな花は、春を待つ人の心を小さく揺らして、かすかな光のような希望を与えてきたのだ。
満月に呼ばれたの?まだまだ咲くの待ってるからね。
しばらく見つめてしまった。
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