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禍話:閉じ込めた、はず

小学5年生の加藤よしき君が体験した話。

加藤君のクラスはいわゆる学級崩壊していて、先生も生徒も授業を放棄。ほとんど授業が無かった。でもみんな学校には来る。それはただ単に他に行くところがないからで、街を歩いていたら小学生の自分たちは補導されて面倒なことになる、ただそれだけの理由だ。

教室では、やんちゃな子たちは当時流行っていたハイパーヨーヨーをして遊び、もっとやんちゃな子は教室の隅の方でかなりやんちゃなことをしていた。

加藤君はというと図書室にいることが多く、普段からズッコケ三人組、はだしのゲンを中心に読書を楽しんでいた。全集があったのだ。図書室はやんちゃな子たちが「つまんねー はだしのゲンしかねえし」などと言ってあまり来ることはなかった。

その日は「広島カープ誕生物語」を読んでいたところ、たまたまやんちゃな子たちが珍しく図書室に来た。そして加藤君の顔を見るなり
「……え?」
と、すごく青ざめた。

「…加藤、だよね?」
どういう意味だ?あたり前だ。俺は俺だ。
「何?」
とぶっきらぼうに聞き返すと、やんちゃな子たちは色々な意味で信じられないことを加藤君に告げた。
「いや、…俺たちは今しがた、お前を向こうの掃除用ロッカーに閉じ込めたんだぞ?」
???
俺はずっとここで本を読んでいたが?
そしてやんちゃの1人はこう続けた。
「さっきお前が廊下でフラフラしてて、話しかけても「♪~~~」って感じだったから、捕まえて閉じ込めてつっかえ棒したんだけど…」

えっ、どういうことだ?…いや、…待てよ。おかしいぞ。
「…それはつまり俺をいじめのターゲットにしようとしたってことか?」
だんだん腹が立ってきたがやんちゃ達はおかまいなしに閉じ込めたはずの加藤君の姿をまじまじと見て混乱して怯えている。

「そういうことしちゃあいけないと思う。とりあえずよく似た奴かも知れないから出してあげようよ」
と、加藤君がロッカーのもとに行こうと提案すると
「いやいやいや!そんなん絶対行きたくない!」
「俺たちは確かにお前を閉じ込めたから!」
確かに俺を閉じ込めた、だと?
「ていうか人を閉じ込めるなんて許せないし」
加藤君はずっと冷静だった。

やんちゃ達は口々に
「いやいやいやもうロッカーに近づきたくもない!!」
「絶対あれだよ、ドッペルゲンガーみたいな!!」
「アンビリバボーなやつだから怖い!!」
と、確認するのを怖がり、拒否した。

しかし、よしきは仲間を見捨てない。

「いや行くしかないでしょ。どこのロッカーよ?」
やんちゃ達はすっかり怯えながらも
「ふだん使われてない、地下の掃除用ロッカー…」
と答えた。

お前らマジやないか。それマジでいじめやん。

******
件のロッカーの前に到着すると、結局ついてきた子たちがみんな
「うわぁ~~…」
とますます震えあがっている。つっかえ棒が閉じ込めた時のままだったようだ。つまり、閉じ込めた ”加藤” は中にまだいる。それは間違いない。

加藤君は説いた。
「どのくらい閉じ込めてたか知らないけどさ、こりゃあ大変なことだぞ。というかお前らは俺にこんなことしようとしたのか?いくらフラフラしてたからって、ひどいじゃないか」

つっかえ棒を外し、加藤君は
「中の人!大丈夫か?開けるよ」
と開けようとするやいなや、周りの子が全力でひき止めた。
「いやいやいや!本当にお前を閉じ込めたんだよ!」
「怖いって!」

加藤君の怒りは増す。
「いやだから、俺のことをそういう対象だと思ってたんか!?」
次第にヒートアップしてきた。「中の人!!返事しろ!!」

その時。
ロッカーの中から ごん と音がした。

「いやいやいや!!!!」
一斉に悲鳴をあげ、とうとうやんちゃ達はパニックになりなおも開けようとする加藤君を羽交い絞めしてきた。

加藤君は抵抗する。
「このまま俺をこんなふうにロッカーに閉じ込める気やったんか!?いざとなったら羽交い絞めまでして暴力に頼る気か!?」
加藤君の怒りは頂点に達し、反対にみんなはただただ恐怖した。
「中のやつを出してやれよ!」
と加藤君が叫べば、
「やめろやめろ!まじで怖いから!」
「触れるな!ドッペルゲンガー的なやつだぞ!」
と止める。

押し問答がしばらく続いたが、
「中のやつもいいかげん出てこいよ!!」
羽交い絞めされた状態の加藤君が暴れ、足が当たった。
奇しくもロッカーを蹴る恰好となった。


反動で扉がゆっくり キィ― と開いた。


ほうきが一本 パタッ と倒れて出てきた。


そしてロッカーの中には 誰もいなかった。


「いやあああああ!!!!!!!!!!!」
加藤君以外の全員が、蜘蛛の子を散らすように全速力で逃げた。

静まり返った地下、カラになったロッカーの横で、取り残された加藤君はひとり、状況を整理した。
・連中は面白半分で俺を閉じ込めた。
・でも俺は図書室にいた。
・連中が来て、俺を見て、怖がった。
・誰を閉じ込めたのか謎だが、助けに来た。
・何もいなかった。
・みんな俺を置いて逃げた。
理性では怖い状況だとわかるがやっぱりひっかかるのは、ロッカーに閉じ込めてもいい人間だと、さらに今現在こうして置いて行かれ、見捨てられたんだと、すべてにおいてやんちゃたちに軽んじられている自分を見つめた。

頭の中で、当時好きだった曲の一節がリフレインしていた。

この悲しみをどうすりゃいいの / 誰が僕を救ってくれるの
(ユニコーン「大迷惑」)

***************
後日改めて、あれは本当に何だったの?ドッキリみたいなことなん?とたずねてみるも真面目な顔で「いやいやいや違う。絶対お前を閉じ込めた」

(…だからそれは俺を軽んじているのでは?)

加藤よしきさんの身に起こった、人生トップクラスに意味が分からない不思議な話。



※この話はツイキャス「禍話」より、「閉じ込めた、はず」という話を文章にしたものです。(2018/10/05 震!禍話 二十七夜)
※この話の語り手は相槌担当の加藤よしきさんです。

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