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禍話リライト:無人小屋人形

大学生のA君は、選択科目に美術系の学科があり、課題のために風景画を描くことになった。

電車やバスで行けそうな良いロケーションをGoogle検索で見つけ、あんまり土地勘はないところだったが良さそうだったので日帰りで行ってみることにした。

A君が住んでいるところより俄然田舎で、バスも1時間に1本かろうじてあるかな、というその場所は見渡す一面畑が広がっていて、ちょっと遠くの畑には作業しているおじいさんがぽつんと見えるだけののどかな風景があり、A君はそんな景色が見渡せる道路脇の空き地でデッサンを開始した。

天気も良く丁度いい気候で、デッサンもはかどった。
途中、のどがかわいたな……とキョロキョロする。もちろんコンビニはない。少し遠くに自動販売機を見つけた。画材などは置いたまま歩いてそこに向かい、田舎特有の知らないメーカーの謎のジュースを買って飲みながらまた来た道を歩き出す。

行きの時はあまり気にならなかったが、一区画だけ見るからに荒れ果てた畑があり、そのそばには無人販売の小屋……の名残があった。というのもとっくに使用されていない様子で、ベニヤの簡易的な壁と屋根に棚があり、そこにお金を入れるためのブリキの貯金箱が放置されている。

その隣の、おそらく野菜なんかを置いていたであろうスペースには、人形があった。ボロボロで汚れていて、髪の毛や洋服は朽ちて無くなり、顔は片目がなく気味が悪いものだった。目にした瞬間思わずギョッとしたA君は足早にそこを離れた。

デッサンの続きをしていた15時頃。到着した時に遠くに見えていたおじいさんが畑の作業を終えたのか前の道を通った。
おじいさんは気さくに声をかけてくれた。
「おう、なんだいお兄ちゃん、絵描いてんのかい?」
「こんにちは!はい、学校の課題なんです」
「へえ、うまいもんだね」
「へへ、ありがとうございます」

ふと、A君がさっきみた無人販売の小屋のことをなんとなく聞いてみようと指さしながら
「あの、あそこの……」
と言い出した途端、おじいさんはすぐ
「あーあれ!気持ち悪かったでしょ!」
と切り出した。
「○○さんとこの畑でね。元々はちゃんとした家だったんだけどね、急にみんな××××になっちゃってさ、家族全員運ばれてそれっきりなんだ」
おじいさんはハッキリと、その○○さんという一家が精神を病んでしまった状態だと教えてくれた。

なんでも、何人家族かはわからなかったがとにかく一家全員おかしくなってしまって病院か施設かに運ばれることになったそうだ。そしてそのうちの何人かは勝手に抜け出し戻ってきたことがあったという。

「勝手に帰ってきてまた連れ戻されるまでの間にその家のおねえちゃんが置いてったんだよ、あの人形。まあ、○○さんとこの所有地だしさ、おれたちが勝手に片すわけにもいかねえのよ」
周りに住む人たちはなにも出来ず、畑や小屋は荒れた状態のままだそうだ。

話を聞いておじいさんが去った後もしばらくデッサンを続け、そろそろもうバスが無くなる夕方にA君は帰ることにした。


地元に戻り、あらかじめ絵を描きに行くと言っていた彼女に
「現地に行って描いてきたんだよ」
と、クロッキー帳を見せた。

「わあ、なんかいい雰囲気のとこだねえ。うまく描けてるんじゃない?」

一緒にペラペラとページをめくり、最後のデッサンまで見終えたはずだったがさらに2~3ページめくったところに、自分は絶対に描いた覚えはない、アタリをつけたページが出てきた。

ちょこんと座った人形の、輪郭にアタリをつけたデッサンだった。
片目が無いとわかるよう、×の印がつけてあった。


A君はあののどかな場所へもう二度と行くことはない。
もし次行ったらアタリをつけた記憶のないデッサンが無意識のうちにどんどん具体的になって、絵が完成してしまったら厭だなと思ったので。



※この話はツイキャス「禍話」より、「無人小屋人形」という話を文章にしたものです。(2023/03/18禍話アンリミテッド 第十夜)

禍話二次創作のガイドラインです。


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