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禍話:すりかえ人形

友人の山田君が会話の途中に
「そういえば今付き合ってる彼女なんだけど、」
と切り出したので、(ん?のろけかな?)と若干身構えるも
「ちょっと前に怖いことがあって…」
と続けてきたのでそのまま話を聞くことにした。
その年下の彼女、Kちゃんの話。

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Kちゃんはある日、大学の友だち同士でAちゃんの家に集まってお酒を飲んだりお菓子食べたりして楽しく過ごしていた。
お酒も進み、学校の話から恋の話からたくさんしゃべって笑ってひととおり盛り上がったのち、最終的に怖い話大会になった。と言っても突発的だったので、テレビで聞いたトイレの花子さんの話とかオチが無いようなコックリさんの話とか、よくある怪談をしてはみんなで「怖いねー」という、ただただ楽しい会だった。

…とKちゃんは記憶していた。この時までは。

次の日、学校でAちゃんが話しかけてきた。
「Kちゃんが昨日話してた『人形の話』あれ怖かったねー」
ん?人形の話?
「クライマックスに声まで変えちゃって、なかなか迫真でめっちゃ怖かったよ!」
Kちゃんは記憶に無く(話したっけな…?)と考えていた。わりと酔っていたからか、全く覚えていない。
「それ、どんな話だったっけ?」
「たしか人の背丈ぐらいある人形の話で…」
すると何となく思い出した。その大きめの人形には名前があった。
「…あー、○○ちゃんて名前の人形の…?」
「そうそれ!あれすごい怖かったー!」

Kちゃんは家に帰ってから、何故かすっかり忘れていた自分が話したであろう人形の話を、ぼんやり思い出そうとしていた。人形の○○ちゃんの話…たしか小学校ぐらいの時の話だ。

おばあちゃんと留守番をしていたある日。
おばあちゃんの部屋の前を通ったらお客さんがいた。お客さんはテーブルを挟んでおばあちゃんの向かい側に、座布団に座っていた。でも、なんとなくおばあちゃんが一方的に話しているなと思った。
(おばあちゃんとこにお客さんいるなら私は居間でおやつでも食べよー)
とおり過ぎようとしたところで、ちょうどおばあちゃんが「冷たい飲み物でも」と部屋を出て台所に向かった。

ふすまを開けたままだったのでなんとなく気になってもう一回部屋を覗いたら、和服姿の人が座っている。
とりあえず「こんにちはー」と言ってみた。するとその人がこっちを向いたか向かないかぐらいの瞬間から記憶が無く、気が付いたら居間で寝ていてタオルケットが掛かっていた。

起き上がるといつの間にかお母さんが出先から帰ってきていて、
「おばあちゃんさっき具合悪くなっちゃって病院行ったよ」
と言う。おばあちゃんとこにお客さん来てたよね?とたずねるも
「お客さん?来てないと思うよ」
と返された。
という、そんな話だ。

不思議な記憶ではあるけれど、そんなにめちゃくちゃ怖い話かな?声色を変えて話すようなところも無いし、その時は咄嗟に変なアドリブでも入れたかな?Kちゃんは自分が話したという記憶もあいまいなままだった。
人形の○○ちゃんは話のどこに出てくるんだっけ?

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山田君はKちゃんからこの話を聞いた時、
「へえーそうなのか、不思議な話だね」
ぐらいのリアクションだったという。酔っぱらって昔の記憶をオーバーに怖い話にしたのかもね、と、2人はこの話を終えたそうだ。


その後しばらくして、Kちゃんは学校の課題がうまくいってないこともあってか、精神的にまいってきていた。明かりも付けない部屋でパソコンに向かったと思えば、手は動いていなかったり、山田君から見てずいぶん病んでいる感じだったという。
「今日は休んだら?」
と山田君が言っても
「いや、ちょっとでもレポート進めないと…」
と追いつめられている。
見るに見かねてとうとう半ば強制的に「今日はやめときな」と、寝させることにした。

横になると、Kちゃんは急にぽつりと、話し始めた。
「前の彼氏がね、あたしが寝てるとき甲高い声で独り言を言うって言ってたんだけど、今は言ってないかな?」
独り言よりなにより、突然の元カレ話に驚いた。
「独り言?言ってないよ、何だよ急に」
「うーん、そうか…」
「おい~、いきなり元カレの話とかドキドキすんだろ」
と山田君が茶化して言っても、
Kちゃんは「うーん」と思い悩んだ様子のまま、目を閉じた。

数日後、Kちゃんの課題も落ち着き家でくつろいでいた時に、山田君はふと思い出しもう一度聞いてみることにした。
「こないださ、急に元カレから言われた独り言がどうのって話あったじゃん?」
「…え?元カレ?なんの話?」
Kちゃんはそんな話をした覚えが無いという。
「寝てる時に甲高い声で独り言言ってて、みたいな話だよ。俺はいっさい聞いたことないけど」
「…私そんなこと言ってた?」
「…相当疲れてたんだな、なんか病んでたもんな」
確かにあの時Kちゃんは課題に追いつめられて様子がおかしかった。山田君はこれ以上話をやめて、よしよしとなぐさめた。

それから2日後。夜7時ぐらいに
「山田君…ちょっと今すぐうち来てくれない?」
と、おびえた様子のKちゃんに電話で呼び出された。今までそんな急に来いなんて無理を言う子ではなかったので何事かと山田君はあわててKちゃんの家に向かった。

到着するとKちゃんは喪服姿で、線香の匂いをまとったまま玄関でふるえて立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
「…昨日、Aちゃんが亡くなって」
Aちゃんの彼氏が、連絡がつかなくなったAちゃんの部屋に行き、そこで急死していたのを発見したらしい。Aちゃんの実家でお通夜があり、Kちゃんは参列して帰ってきたところだという。
大学でお世話になっていて…と、Aちゃんのお母さんにご挨拶すると、Kちゃんや一緒に参列した大学の仲間たちに、お母さんはAちゃんの部屋を見せてくれた。

初めて行ったAちゃんの実家の部屋には、割合大きめの人形がたくさん飾られていた。
「昔からこんな感じなんですよ。Aはね、人形が大好きな子で、この人形は◇◇さん、こっちは△△さんて名前をつけててね…」
人形の名前が全て、苗字+名前のフルネームだった。
(なかなか人形にフルネームの名前つけないな…)と思ったのもつかの間、お母さんが教えてくれた人形たちの名前の中に、「○○ちゃん」があった。

その名前をお母さんから聞いた瞬間Kちゃんは、Aちゃんの家での怖い話大会のことを急にすべて思い出した。

(おばあちゃんの話も元カレの寝言の話も、全部Aちゃんが話していたんだった。なんで今まで気づかなかったんだろう)

亡くなったAちゃんは、理由こそわからないが自分の体験談をKちゃんが話したことにしようとした。
つまりは記憶を、すり替えようとしていた?
なんのために?

Aちゃんのお母さんが見せてくれたその○○ちゃんは和服を着ていた。他の人形たちと違ってひとつだけ埃も被っておらず手入れが行き届いており、いまにも動き出しそうだった。
「Aね、一人暮らしするとき、どうしてもこの子だけは一緒にいたいって言って、1人暮らしの部屋に持っていってたんですよ」
「え?でもみんなでお邪魔した時、Aちゃんの部屋になかったですよ」
と仲間内のひとりが言うと、お母さんは
「なんかね、お友だちが来るときは恥ずかしくってクローゼットの中に置いてたんですって」
と寂しげに笑った。
Kちゃんはあの日、Aちゃんに「Kちゃんここ座って!」と、クローゼットのまん前に座らされていたことも思い出した。


「だから、あの怖い話大会してる時も○○ちゃんはクローゼットの中に……私のすぐ真後ろに、あった…というか居たんだよね」
震えながらそう言うKちゃんを、山田君はただ慰めるしかなかった。


Aちゃんが何かを押し付けそこなった話。


※この話はツイキャス「禍話」より、「すりかえ人形」という話を文章にしたものです。(2020/11/03禍話X 第二夜)

禍話二次創作のガイドラインです。
https://note.com/nightmares4/n/na4b584da01fe

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