コロナとオリンピック 理論的にコロナとオリンピックとの関係を見つめ直してみる
では3冊目の書評に参りましょう。
今回は、オリンピック研究の第一人者と言われている、新進気鋭の石坂友司氏の著作です。
恒例のごとく読書ノートをベースとした書評ですので、私の読書ノートの凡例を示しておきます。
まずは書籍のメタ情報を。
書名 コロナとオリンピック
読書開始日 2022/02/23 11:29
読了日 2022/02/24 12:05
概略
東京オリンピックが1年延期で開催され、その後個人的に社会学的にどう考えるべきかと思い購入。
最初ちょっと読み出していたが、途中で止めていることを確認(最初の数%のみの読書)。
産経新聞夕刊の著者のインタビュー記事を見て、購入していることを思い出しました。また、北京冬季オリンピックも終了したため最初から読み直してみることとしてみました。
読了後の考察
オリンピックを開催するに当たっての制度上の問題等については非常に良くまとまっていたと思う。
しかし、著者はオリンピック開催を批判するだけで、それ以上のことは出ていない。さらに招致に関する利権については全然触れていない(後書きで著者本人も言及している)。一番大事なところについてメスが入っていないのは非常に残念です。
今回の著作で、オリンピック開催自身を(どこで開催するかと言うことは別にして)止める、ということはマイナースポーツの振興ができなくなると言う意味では良くないのではないか、と思うが、大会に参加するだけという風に国としての活動を「制限」してしまえば、強化活動もできるので、折衷案となるが、一番の解決策になるのではないかと感じた。
今回のコロナ禍でオリンピックのいままでの問題がすべて出てきたな、と考えていたが、やはりその通りだと思う。
本の対象読者は?
オリンピックに興味がある人
東京オリンピックの総括をしてみたい人
著者の考えはどのようなものか?
「終わりに」の中でほぼ総括がすんでいると思われます。
著作の建てつけは論文を元としているのであろうと考えます。
→☆最初は「復興五輪」という話だったが、コロナ禍になると「コロナに打ち勝ったことを示すオリンピック」にすり替わっている。
復興が体よく使われただけ。
招致は地震が起きてから4ヶ月後に始まったとのこと。理念をまとめる時間としては非常に短い気もする。
・招致の段階から「理念なきオリンピック」と言われていた。
☆理念を前面に押し出すからややこしくなるのではないか?4年ごとにやる、ということだけで理念をなくして普通の世界選手権のようにしてしまうのがいいのかも知れない。これは理論的な話で、実際にそこに戻れるかどうかと言うことはやってみないと分からないし、オリンピック憲章を改定しなければならないだろう。おそらく保守派がそれは望まない。そういう意味ではかなり険しい道ではあると思う。
また、そうしてしまうと皆が感じるオリンピックの特別感がなくなってしまうので、大会開催が存続できないかも知れないとも思う。
→☆その通りの可能性が非常に高いと思う。オリンピックがラグビーのワールドカップのような立ち位置であればこれでOKなのだが…
→☆オリンピック120年の歴史で社会に適応するようにして成長してきた大会ならではの変遷ぶりではあると思われる。
適応してきたから存続しているのではあるが、いまの形が本当によかったか、というのは別の話になるのだろう。
どんな組織でも完璧な理念と完璧な執行体制を築いているということは絶対にないはず。ある程度瑕疵はあるだろうがそれが許されるレベルなのかどうか、ということが重要な話になってくるのだろう。
特にオリンピックのようなほぼ世界中の人が関わるようなものであれば全員が納得できるような形ではないが、なるべくみんなが納得できる組織になっている必要はあると思う。
→☆このようにいけばいいのだが結局は商業主義に飲まれている。
→☆理論的にはそうだが、思ったより早い時期にやるかやらないかを決断する必要があったと言うことと、IOCが開催するかどうかを決定する、という非合理的なシステムがこれを阻んだとも言える。
また、IOCの視点と、JOCの開催か非開催を意思決定する人たちの視点もほぼ一致していないと思われます。
そして開催するか、開催しないか、ということについてJOCやIOCが日本国民に対するリスクコミュニケーションをとる、という発想もかけていたのではないかと思われます。
今回の騒動を踏まえてオリンピック招致に関して変化が訪れるといいのですが。
→☆実際そうだろう。小理屈野郎自身もそうだから。また、このような機会があったからこそ小理屈野郎はこのような著作を読むことになったのだと考えます。
このようなチャンスは一人一人がうまく生かしていくことも大事だと感じました。
その考えにどのような印象を持ったか?
それぞれふむふむなるほど、というレベルの話ではあった。
制度的な話についてははじめて見聞きするものもあったので非常に示唆的だった。
また、商業主義とスポーツの関係などもダークな面に光を当てて考えているところは良いと思う。
繰り返しになるが招致の利権についてはこれまでも色々な話が出ているが一切触れていない。それが残念でした。利権の話を聞くと、ひょっとしたら、大会の開催や存続自体が問題、という結論になるかも知れないな、と思ったりしています。そこに、将来著者が踏み込んでくれればなと思います。
類書との違いはどこか
オリンピックについて詳細な論文を元に著されているところです
著者はスポーツ社会学者と言うことですから、非常に論理的に話が進んでいるところは、美点だと思います。読んでいるとある意味退屈だったりしんどく感じるところもあるけど、全体を見通して考えると非常に理論が明確でクリアカットだと思います。
関連する情報は何かあるか
64年東京大会や40年東京大会(幻の大会)についても言及があるところ
まとめ
奥付を見ると2021年7月に発行された本となっている。
これは言い過ぎかも知れませんが、発行をもう少し待って、東京オリンピックが終えてからその総括も含めて発行するというのが手ではなかったかと思われ、残念に思います。
ひょっとしたら、東京オリンピック後、しかるべき期間が過ぎてから総括される予定にされているのかも知れません。
それを待ってみようと思います。
次はこの著者の石坂氏が1940年から2020年にかけてのオリンピックの動きについて書いた著書について、書評をまとめたいと思います。
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