見出し画像

融通を利かせてくれるおじさんの仕事の流儀

街から少し離れた場所にある観光名所。そこでこっそりと融通を利かせてくれたおじさんのお話。

そこの観光地はまるで江戸時代を再現したような通りが作られていて、左右に流れる小川には鯉が泳いでいる。
正面の入り口から入ってすぐには温泉があり、通りを進む途中には名物料理の飲食店や旅館などが立ち並んでいる。

決して大きな観光地ではないが観光客だけではなく地元の方もいつも訪れており、いつ行っても大賑わいもないが閑散としていることもない。

その江戸時代を思わせる通りを進んでいった先に、ガチャガチャが数台並んだ場所がある。
今ではガチャガチャは300円から400円が当たり前になってきたが、そこは100円や200円ばかりとそのほとんどが安い。
安いには必ず理由があって、安いならではのクオリティーのものや、アタリを引けば良いが多くの場合にはハズレで100円クオリティーのものが出てくるものなどばかり。

田舎の観光地に行くとたまに見かけるような、それで大儲けはしないけれどもちょっとだけ楽しんでもらってちょっとだけ儲けさせてもらおうくらいのおまけで設けられた施設かなと思う。

何の気なしにそのガチャガチャを眺めていると、面白そうな商品があった。
それは一見すると動物のフィギュアのように見えるが、よく見るとそれは黒タイツの人間が動物の被り物をして擬態しているようになっている。

その面白さに心惹かれてやってみようとしたが、そのガチャガチャはアタリが出たらそれが出てくるいわゆる多くの場合にはハズレのもの。
ここは運試し。ハズレでも良いではないか。せっかく来たのだからやってみよう。

そう決心しハズレ覚悟でガチャガチャに100円玉を2枚入れて回してみる。大人になった今でもガチャガチャを回すときのワクワク感は健在で、一周ではカプセルは出てこず手を持ち替えて二周目を回さないといけないもどかしさもまた楽しい。

中で回る金属のガチャガチャガチャという音と、ぶつかり合うカプセルのコツコツとした音もまた心地よく、ガチャガチャをするときの一番の面白味はここにあるのではないかとも思う。

そして出てきたカプセルは、一目でハズレだとわからせてくれるほどの半透明の安っぽさ。
やっぱりハズレかと落胆しながらも諦めで気が抜けた気持ちになるのも、またガチャガチャならではか。
中に入っているのは一色で作られた小さな動物のフィギュアだった。
かなりの大量生産がされたのか、あらかじめ作られた型に原料の樹脂を入れて固めてそのままポンポンポンポンといくつも短時間で作られていっているのが想像できてしまうほどのチープさがまた愛おしい。

そのままそれを持ち帰ろうとしていたとき、ガチャガチャの補充に来ていたおじさんに声をかけられる。

「良いの当たった?」
優しさと気さくさが混じったその笑顔にすっかり安心し、
「いや〜ハズレちゃいました」
と笑いながら答えてみる。

「どれが欲しかったの?」
意外なほど突っ込んで聞いてくるおじさんに、
「これですね〜欲しくなってしまって」
と正直に答えてみた。

「これね。わかった!」
手に持った鍵を使い慣れた手つきでガチャガチャの蓋を開け、
「これで良い?カプセル真っ黒だからどれが入ってるかわからないけど」
とアタリのカプセルを渡してくれた。

「交換にするからさっき出たハズレを渡してくれたら良いよ」
と、流石に一回分の料金で二回分の商品は渡せられない最低限のルールは守りつつも、特別に交換してくれた。

アタリのサイ

「ありがとね〜」
とお礼を言いながら見送ってくれたそのおじさんにこちらも
「ありがとうございます!」
とお礼をし、その場を後にした。

おじさんがやった行為は、もちろんルール違反ギリギリのところかもしれない。
けれどルールは最低限大事にしてながらも可能な範囲での融通を利かそうとしてくれるところは素直に嬉しい。

細かくきっちりと真面目にやる仕事も良いが、
大雑把にゆったりと融通利かせてやる仕事も良い。
サイになろうとしても足が出ちゃってるくらいがちょうど良い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?