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普段選ばない本 読んでは(毎日新聞2019年5月4日朝刊東海ワイド面p19掲載)

本はインターネットで買うので、図書館にはしばらく行ってないという人も多いのではないでしょうか。買って手元に置いておきたい本は、好きな作家や好きなジャンルの本だと思います。ネット書店は「この本に興味を持った人はこんな本もチェックしています」というレコメンド機能もあり、利用者の好みにあった本を推薦してくれます。便利ですが、久しぶりに図書館に行って、普段読まないジャンルや作家の本を手に取ってみませんか。

田原市図書館では、袋を開けるまでどんな本が入っているか分からない「本の福袋」という名付けたセットを貸し出しましたが、これが予想以上に好評でした。返本時に、「自分では選ばないような本が入っていたけど、読んでみたら面白かったよ」という感想を多く頂きました。福袋ではなくても、図書館の棚の間をぶらぶら歩いて、自分では買わない、普段選ばないような本を読んでみると新たな発見がありますよ。私は最近、これまであまり読んでこなかった科学関連の本を月に1冊は読むことにしています。

梅棹忠夫は『知的生産の技術』で、読書について「他者の思考や新しい情報を積極的に取り入れることで発見や創造が生まれる」「読書は発見のための触媒作用である」と述べています。私たちは自分の所属している組織や地域の思考傾向に陥りがちです。自分が好きなものや関心のある情報ばかりに取り囲まれている状態は心地良いかもしれませんが、考え方や興味の対象が違う人、異なる文化の情報は、意識して集めようとしないと目に入りにくくなります。

梅棹の言う創造的な読書をするには、普段読まないような本も積極的に読むことが重要なのではないかと思います。また、梅棹はこの本で読書ノートをつけることを推薦しています。書くことは、本の内容(著者の思想)の抜き書きや要約ではなく、「自分がその本を読んでどんな発見やひらめきをしたのか」だとか。著者の思想によって触発された自分の思想を育て、開発するための読書、場合によってはその後の人生が変わってしまうような一冊と出会うかもしれません。

ゴールデンウィークも残り数日となりました。最近の公共図書館は祝日でも開館しているところが増えています。旅行中の人は旅先の図書館も良いですね。ぜひお越しください。ゆったりとした時間を持つことができるせっかくの長い連休ですから、少し気になった本をいくつもぱらぱらとめくって、面白そうな本を選んで読んでみてはいかがでしょうか。

【今月の一冊(大林正智)】
◇絶望書店
絶望した気持ちに寄り添う言葉の福袋。夢を諦めなければならないとき、こんな福袋を開いてみるのもいい。ベートーベンの手紙からBUMP OF CHIKENの歌詞まで。頭木弘樹編、河出書房新社(税込み1620円)。


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