見出し画像

『愚痴を言われないグチ屋』

今回は前回の記事の続きです。
14歳の頃、路上に座り、
スケッチブックを看板代わりに
「グチ屋」を行ったときのことを
書こうと思います。

グチ屋をしたいと思った簡単な経緯は
ぜひ前回の記事を読んで頂けたらと思います。

---------------

選んだ場所は福岡の久留米の一番街。
マックの斜め前にあった
花壇のブロックを背もたれにした。

私の地元は電車もないくらいのド田舎で、
久留米は当時の私にとってはかなり都会だった。

一番街にした理由はバスの降車場所から
あまり離れたくなったことと
とりあえず人通りが多そうという理由から。

看板をよいしょと立てる間、

行きかう人からチラチラと視線がきては去っていく。

それはもう心臓が痛かった。

今の私が想像してもなかなかな
無鉄砲なことをしたと思う。

<中学生が一人で路上に座って
「グチ屋」って看板を出している>

高校生や20代のミュージシャンが路上で
アコギで歌っていることはあるけれど
なかなかシュールな光景だったのではないかと思う。

とりあず座ってはみたものの…

案の定、グチを言おう!と
いそいそとやってくる人は
いないわけで、何時間と座りながら、
通り過ぎる視線に耐えていた。

この時一番困ったのは

「どんな表情でいればいいのか」

ということ。

ニコニコしてたら変だ
でも無愛想にしてたら話しかけにくいよね
どんな顔して待てばいいのか分からない…

話しかけられなければ、
当然することがない。

「いや平気ですけど」
みたいに平気風を装いたいけど、
「平気風」ってそもそもなんだ?

そうこうしてると1人目の人に声をかけられる。

「どうした?何かあったんか?」

若いお兄さんだった。(多分20代くらい)

「グチ屋をやってます。グチ聞きますよ」
頭の中の練習どおり、ちゃんと言えたとホッとする。

「子どもにグチるようじゃいかんなぁ」
そう笑いながら
「何かあったら周りに言うんだよ」と
さわやかに去っていった。

それからしばらくするとお姉さんが話しかけてきた。

「どうしたの?大丈夫?」

「はい。グチ屋をやってます。
グチとかありますか?」

「う~ん、特にないかなぁ。気を付けりぃね。」
笑顔で去っていく。

2人に話しかけられ、
周りを見渡す余裕が少し出てきた。

「あら~!どげんしたと!」
元気な声の3人組のおばさん
(当時の私から見た印象)が
話しかけてきた。

スナックのママさんたちで、
昼間に買い物に来ているらしい。

「すっぴんで良かろう~」
「グチやったらたんまりあるばい~」
顔を見合わせながら気持ちよく笑うおばさん達。

「とても聞かせられんことばっかりよ~。
 時間がいくらあっても足りんくなるけんねぇ」

「お嬢ちゃんも気を付けてね~」

あっという間ににぎやかになって
あっという間に静かになった。

そのあとはお兄さんがきて
連絡先を書いた紙をもらったくらいで、
特にグチを言いに来る人はいないまま
1回目が終わった。

4時間くらいとりあえず座っていたと思う。

帰りのバスで
「また来週やってみようと決めた」

とりあえず行動したことへの満足感と
「結局ひとりもグチを聞けなかったな」
という寂しさがあった。

それでも学校の自分とは違う
何かができた気がして
少し楽しかった。
 

次の週の日曜日、
同じ時間帯に同じ場所にやってきた。

実はこの日、座ってみて1時間くらい
経ったところで
2人組の警察官がやってきた。

(画像は可愛いフリー素材を拝借)
「君何してるの?家はどこ?学校は?」

まさか自分が警察に話しかけられると思わず
少し頭が真っ白になり、
オロオロしながら説明した(はず)

「こんなところで危ないから」
「すみません…」

「もうしないようにね、分かったね?」
「はい…」

------------

今振り返れば、そりゃ心配になるわけで
むしろ警察官の方には
感謝の気持ちが湧くわけですが、
当時はとにかく
「怖い、怒られてしまった」
という気持ちでいっぱい。

大それたことしてしまったような不安と
もしかして家や学校に連絡がいくのかな?と
一週間くらいドキドキしながら過ごしました。

私にとってある意味大冒険でもあったグチ屋は
あっけなく終わってしまったのでした。

結局は通りかかった大人に心配されただけで
当初の「グチを聞いてあげるんだ」という目的は
1人も達成しないまま。

たった2回で出番が終わった
スケッチブックが手元に残り、
看板を書くために買った
クレヨンやマジックも
使い道がなくなってしまった。

恥ずかしいような、モヤモヤ。
かと言って誰にも言えやしない

仕方なく、スケッチブックの空いたページに
マジックやクレヨンで気持ちを一言かいて
スケッチブックの使い道を探すことにしました。

(↑実際に書いていた言葉。
今とかなり書体も違いますね。)

これが「書芸家こぱ」への最初のきっかけです。

武勇伝のようなものもなく
仕方ない気持ちで始まった私のストレス発散。

ここから紆余曲折ありながら20歳の時に初めて
人に見られるまでこっそりこっそり書いていました。

スケッチブックは7冊くらいになってたかな。
思い返すと懐かしくて
長くなってしまいましたが
お付き合い頂きありがとうございます。

次からは時系列バラバラになりますが
20歳以降、少しずつ周りに言葉を書き始めた時の
エピソードや出会ったユニークな人、
そんな人から貰った言葉を書いていきたいと思います。

下ネタ好きの癌末期の似顔絵師のおじさんや
マックのポテト片に手転職活動をする
70歳のおばあちゃんや
大阪で出会ったホームレスの方、
カフェの常連で全く楽器を知らないトミーさんがいきなりトランペットを買っちゃったユニークな日常や、
シルクドソレイユで出会った秀人さん。
間違えて話しかけて友達になった
日系アメリカ人のリー……etc

こんなにいろんな人がいるんだったら
私みたいな人がいてもいいかと
笑えるようになった素敵な出会い。

日常こそ、サプライズで溢れている。

書芸家のさゆりでした。

◆Twitter@shogeika_sayuri
 https://twitter.com/shogeika_sayuri
【作品一覧】
◆Instagram@shogeika_sayuri
 https://www.instagram.com/shogeika_sayuri/

🌸スキやフォローを頂けると
更新の励みになります🌸

サポートを頂いた場合は
画材代など作品制作費に使用させて頂きます。

この記事が参加している募集

#自己紹介

233,998件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?