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Kort roman

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私のそばに常にある、短編小説
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#ワンピース

センペルビウム・ライラックタイム

センペルビウム・ライラックタイム

 パスケースを改札機に当てると、ぴっ、という音が鳴った。思わず私は左手をきゅっと握る。大丈夫。私は二つの重厚な機械の隙間を縫うように通り抜けていく。ホームへ向かうエスカレーターはどうしようもないほどゆっくりと上昇していくので、もはや私に逃げ場はなかった。ほんの短い間、目を閉じてみる。静かとは言えない駅の持つ独特な音の響きが、私の体の底まで揺らしているようだ。

 まもなく、一番線に、各駅停車、京王

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