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今、キャンサーペアレンツについて考えていること

創設者の西口さん(ぐっちさん)が亡くなって、半年が経ちました。今、キャンサーペアレンツはどうなっているのか、理事としてどう考えているのか、を整理してみました。

5〜7月の振り返り

5月5日にキャンサーペアレンツのオンラインイベントを開催したとき、西口さんも顔を出してくれました。ものすごくつらそうだったのに。その数日後、訃報を受け取ることになりました。

悲しみに浸る間もなく、周囲からの連絡や取材依頼がたくさん届き、その対応に追われていくことになります。ご家族はそっとしておいてほしいと願っていたのですが、ご自宅に弔問したい、ご家族と話をしたいという善意からなる要望が多数寄せられました。キャンサーペアレンツは、ご家族の気持ちを最優先とさせていただき、そのような方々のフロントに立って対応を続けてきました。生前の西口さんの希望でもあったので、ご家族への直接のコンタクトはすべてお断りさせていただきました。ご希望に沿えなかった方には大変申し訳ありませんでした。

四十九日が過ぎた後、7月19日にキャンサーペアレンツ主催で「西口さんお別れの会」を実施し、100名程の方に集まっていただきました。その日が、一つの節目になったように思います。

8〜10月の振り返り

キャンサーペアレンツの運営メンバーは、8月頃から未来に目を向けて動きはじめました。他の患者団体等のイベント出演や学会への参加、私たちの活動にご寄付で支援をしてくださっている企業の皆さまとの協業などです。ただ、会員さんとの関わり合いや広報活動については、大きな役割を担っていた西口さんの穴を埋めるのは簡単ではなく、試行錯誤の日々が今でも続いています。

そして、西口さんは死の間際まで、キャンサーペアレンツの事業化による将来の発展を夢に描いていました。それを実現させるために、西口さんがいるときに理事で話し合って決めたのが、ホラクラシーという組織運営の方法です。そのときに決めたやり方・役割・その担当は、そのままでいいのだろうか。まだ自問自答を繰り返しています。必要と判断したら修正も行うことがあるかもしれません。

理念を中心に、代表者を置かずに運営をしていくと決めていましたが、実際に代表がいなくなると、その難しさに戸惑いも感じていました。運営メンバーの半分以上は、今年の春に加わっています。決めていたことではありましたが、5月に西口さんがいなくなってしまうなんて、あまりにも準備期間が短すぎました。

新型コロナウイルスの影響で、リアルで顔を合わせることもなく、運営体制の人数が倍ぐらいになったタイミングのすぐ後に西口さんが亡くなってしまったことなども重なり、共通の文化の土壌はまだまだ出来上がっていませんでした。今年の春に運営メンバーが増えてから初めて実際に顔を合わせてのミーティングを実施できたのは、9月に入ってからのことです。

ようやく実施できたリアルの場でのミーティングは、モヤモヤしていたものが、少しはクリアになるきっかけを感じられた機会となりました。西口さんがいなくなった今、世間からの注目度は下がっていき、寄付金が大きく減少するリスクだってあります。運営メンバーは理事を含め無償のボランティアですが、4,000人弱が参加するSNSを提供し続けるためには、最小化したとしても活動費用はかかります。ワーストケースを想定した場合、活動を継続できる期間は1〜2年程度です。運営を継続することを考えるためには、中長期的な視点を持っていないといけないという危機意識は共有できました。

しかし、最も大事にしなくてはならないのは、今いる会員さんなのではないだろうか。未来のことを見据えつつ、まずは会員さんと運営メンバーの距離を縮めることに力を入れていこう。私たちは、私たちの価値への理解が足りていない。これが運営メンバーの共通認識となってきました。

多くの人が、キャンサーペアレンツの会員よりも、西口さんのことを応援していた

西口さんの生き様は、人を強く惹きつけるものがありました。そして、明るく魅力的なキャラクターでした。晩年は体調を崩していたのに、生きるエネルギーは以前より増して輝いていたように身近にいて感じていました。それは、使命感を持って生きていたからなのだと思います。

なので、西口さんを応援したい、という気持ちを持たれた方がいたのは自然なことでもあるし、キャンサーペアレンツにとってもありがたいお話だと思っています。ただ、メディアや西口さんを通して知るキャンサーペアレンツからは、その先にいる会員さんの顔が見えていないことも多いのだと思います。

しかしそうなると、存命中は西口さん=キャンサーペアレンツだったのが、今は西口さん=キャンサーペアレンツではない、に変わってきます。残された人たちの心の中には、まだ力強く西口さんが存在しています。でもそれは、時が経つほど、キャンサーペアレンツを創設した人ではあるけれど、今いる会員さんとは離れていきます。このままでは、主役であるはずの会員さんが取り残されていってしまうという危機感が募っていきます。

不満をぶつけられたことも

うまくいっていないこともあります。苛立ちの感情をぶつけてこられる方もいらっしゃいました。運営している人の顔が見えない。西口さんだったらこうしてくれるのに、と。キャンサーペアレンツのことだけではなく、その方自身の蓄積された個人的な悩みや、その方が今抱えている問題、も苛立ちの背景にあったようにも感じました。加えて、運営の至らないことがあってのことだったり、今でも西口さんにいて欲しい、でも簡単に代わりが務められる人がいない、という理由もあったと思います。

その時は、ただただ、話を聞かせてもらいました。その人が満足できるような答えをすぐに提示することはできないので、いまでも解消されていないかもしれません。

一方で、感謝の言葉を伝えてもらえることが圧倒的に多い

運営側としてやりきれていないことが沢山あることは間違いありません。限られた時間の中、ボランティアで運営する大変さを日々感じています。そんな中でも苦言を呈されてしまったり、第三者からの批評まであると、精神的負担だけが大きくなってきます。無償でサービスを提供すること、その活動にコミットするのは当然、というスタンスの人と話をするのは、エネルギーと時間を過剰に奪われます。

それでも、「やっぱりキャンサーペアレンツは社会の中に残ったほうがいい」と思っています。それは、以下のような感謝の言葉を直接聞かせていただくことがあるからです。

・「つながりは生きる力になる」を感じています。
・キャンサーペアレンツがみんなの生きる力になっている、ということを感じています。
・家族にも言えないことを話せる友人ができました。
・同じような境遇の方とつながることができたのは、キャンサーペアレンツのおかげです。

オンライン・オフラインでお会いした会員さんからは、心からの感謝の言葉を伝えていただくことが多く、それが私たちの心の支えになっています。なかには、とても熱く伝えてくださる方もいます。交流の場では笑い合って話をしています。死をすぐ近くに感じながら参加してくれていることを知っていると、何気ない笑顔の会話をしているだけで、胸が熱くなります。

そして、キャンサーペアレンツに出会ってよかった、と言ってくださる方は、偶然知ったという人がけっこう多いと感じました。まだまだ認知度が足りていないのだと思います。お子さんを持ちながら大変な病気と向かう方に、少しでも生きる力を提供できているのであれば、もっと広く知っていただけるような努力を今後もしていきたいと思っています。

助ける、助けられる、は一方的にはしない

グラレコ_ 受益から与益

(2020年2月のボランティア説明会のグラフィックレコーディングより)

会員さんとの距離を縮めると言っても、以前と変わらず大切にしていることがあります。

「助ける、助けられる、は一方的にはしない」ということです。フラットな立場で、受益だけではなく、与益もする。互恵的な関係、といったほうがわかりやすいかもしれません。そのためには、患者さんのアクションにつながる、ということを応援したいと思っています。

最近は、複数の会員の方に主催となっていただき、オンライン交流会を実施していただいています。Zoomに慣れていらっしゃらない方も多くいますので、Zoom講習会を開催して、誰でも気軽に交流会を開催できるような支援も行っています。少しずつでもいいので、会員さんが主体となる交流の輪が広がっていくことを願っています。

つながりは生きる力になる、を証明する

グラレコ_企業との協業

(2020年2月のボランティア説明会のグラフィックレコーディングより)

メディリード様とキャンサーペアレンツによる共同調査から、国立がん研究センター東病院 緩和医療科 小杉 和博先生らによる研究で「孤独感の低いこととオンラインピア・サポートの利用頻度が有意に関連を示した」と発表されました。

18歳未満のお子さんをもつがん患者さんを対象に、孤独感をUCLA孤独感尺度で評価、その上位50%を高孤独群と定義し、関連する因子を多変量解析にて探索しました。
その結果、孤独感の低いこととオンラインピア・サポートの利用頻度が有意に関連を示しました。両者の関連を示した初めての研究になります。

Association Between Loneliness and the Frequency of Using Online Peer Support Groups Among Cancer Patients With Minor Children: A Cross-Sectional Web-Based Study

これはとても嬉しいニュースでした。私たちの存在目的は「つながりは生きる力になる、を証明する」です。日常的な活動をしていきながら、エビデンスになるような研究への協力を今後も続けていきたいと思っています。

今、運営メンバーで話し合っていること

システムの運用費用もかかるし、社団法人として最低限必要な経費もあります。できる限り最小限のものにしていますが。運営メンバーは理事を含め、本業を別に持ちながら、全員無償で働いています。西口さんは所属していた企業の配慮もあって、キャンサーペアレンツの活動に多くの時間を割くことができていましたが、現メンバーでは、今のところ、西口さんと同じぐらいの時間を活動に割くことができる人は誰もいません。

長期にわたり組織を運営していくことをどう実現していくか。これはまだ未解決のままです。活動を継続するためには、人的、金銭的なコストがかかります。誰かが考え、資金の獲得、組織を維持するための行動をしなければならないことをある程度は理解していただくことの努力も必要だと思っています。

ですが、今だからこそ、原点をしっかりと確認して運営メンバーは共通の意識を持たないといけないと考えています。次の3ヶ月で、これからの運営についてあらためて考えていくことになりました。

最近は、会員の方にも協力していただき、運営メンバーとのオンラインミーティングを実施させていただいています。会員として感じていること、要望などを率直に教えていただきました。とても参考になったので、もっと多くの方ともミーティングをしたいと考えています。

会員さんのことをもっと深く知るには、やっぱり直接お会いする機会もつくりたいと思っています。もっと多くの会員さんに会って声を聞かせてもらわないと、想像力が本質的なところに届かないのだと思います。2020年は実施できませんでしたが、来年は全国をまわってオフ会を沢山できるといいな、と思っています。

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