手紙


桜と智子

春の始まりを告げる様に風がカーテンをゆらす午後の病室、
4つあるベットには2人が寝ている。
ドアを軽く音がする、ナースが入ってくる。


ナース「智子さん、おはようございます!
さぁ検診のお時間ですよ、
頑張って起きてください。」
智子「ああいてて。
今日はあの子は来てないのかい?」
ナース「娘さんですか?
今日はまだいらしてないですね、
検診があることはお伝えしてあるので終わる頃こられるんじゃないですか?」
智子「そうかいそうかい
あの子が近くにいるとねなんだか懐かしくて
元気になるのよ。」
ナース「いい娘さんですよね、
今どきの子は見舞いにも来ない人が
ほとんどなんですよ?
仕事が忙しいから面倒見れないって。
だから看護師さんや介護の方々が面倒を見るってのがほとんどなんですよ。」
智子「私のところに来るのも介護のあの子だけですから同じですよ。」
ナース「あらあら
あの子は智子さんの娘さんよ?」
智子「私に娘はいませんよ、
身寄りもいないんだから。」
ナース「あっそろそろ向かわないと、
行きますよ智子さん。」
智子「はい。よろしくお願いしますね」

 2人は検診に向かう。
少し小走りでだが勢いよく病室に入ってくる桜

桜「おばあちゃんごめん!
残業で少し遅くなっちゃった・・・
だからほらおばちゃんのためにジャーン!
よく昔買ってくれた・・・?
あれ?おばあちゃん?おばあちゃん!?・・・あっ今日検診の日だったっけ。
忘れてた。焦ってきたのが馬鹿みたい。」
            
桜近くのベッドに腰掛ける。
昔の事を懐かしく思い出しながら
ふと小さく溜息をこぼす

桜「はぁ私はおばあちゃんに
最後に何を伝えればいいのだろう・・・
お医者さんも『そんな長くはないでしょう』
って言われてるし、そんなん信じたくないけどでも信じるしかなくて、せめて
せめて最後に何かしてあげたいんだど・・・」
            
春の温かさと窓から入ってくる心地よい風
急いでた事もあってなのか疲れたのか座ったまま寝てしまう。

智子「こら」
桜「キャ」
智子「桜いつもいつも私のベッドで寝るんじゃありません!」
桜「ごめんなさい、おばあちゃん。私ねおばちゃんのベッドすごく好き、
なんか安心する凄くいい匂いがする!ねぇ、
今日一緒に寝てもいい?」
智子「全くしょうがない子だね。
今日だけだよ」
桜「やったー!!」
 「・・・さん・・くらさん」
ナース「桜さん桜さん起きてください」
桜「キャあっ看護師さん!ご、ごめんなさい!」
ナース「誰も居ないはずなのに寝てる人がいるんだからビックリしたわよ
そーだ智子さんもうすぐ戻ってくるわよ」
桜「あっわかりました!
ありがとうございます!」
ナース「本当に桜さんは智子さんのことが
大好きなのね」
桜「はい!
だって私の大事なおばあちゃんなんです!」
ナース「今時珍しいわよー
他の人なんてお見舞いにしか来ない
迷惑にしか思わない
高年齢化してるってのもあるけど可哀想ね。」
桜「本当ですよね、でもお姉さんは
そんな人たちを救いたいから
今の職業をしてるんですよねかっこいいです。大変だと思いますけど頑張って下さい!」
ナース「ありがとう、ほら!そろそろ
大好きな智子さんが戻ってくるわよ」
桜「はい!」

ナースと入れ違いで智子入ってくる
智子年齢は85歳見た目は元気そうな若々しいおばあちゃんである。
3年ほど前だろうか物の場所が覚えれない、記憶が薄れていく認知症の初期の症状である。
2年前に夫が他界してしまったこともあり一人暮らしになった為桜がこの病院へと連れてきた
初めは嫌がっていたが今ではすっかり病院暮らしに慣れてきたのであろうか

智子「あんたは今日も来てたのかい?」
桜「あっおばあちゃん
ごめん今日検査日っていうこと
私すっかり忘れてて、
だからほら今日のお見舞いは、、、
おばあちゃんの大好きな桜餅だよ!」
智子「今日もお見舞い持ってきてくれたのかい?
あんた私の好きなものよく知ってるわねぇ〜
まるで私の娘みたい」
桜「・・・だって・・・そうだもん。
おばあちゃんが私の名前
つけてくれたんだよ?」
智子「何度も言うけど私には今。
身寄りがいないの。
あの人が居なくなってから少しだけ寂しく
なっちゃったわ、、、
あなた介護の人なんでしょ?」
桜 「本当に思い出せないの?」
智子「思い出すも何も記憶にないからね」
桜 「そっか・・・早く元気になってね?」
智子「ありがとう。
今日はお薬飲んで早く寝るわね」
桜   「うん・・・またねおばあちゃん」

少しだけ寂しい目を見せながら
静かに病室を出る
病院独特の匂いというのか
そのせいだかなんだか少し息苦しい、
気持ちが沈みながら階段を降りている中、  先程のナースが現れる

ナース「桜さん少しいいかしら?」
桜   「あっはい」
ナース「ここで話すのもあれだから
場所変えてもいいかしら?」
桜    「・・・はい。」

この時桜は少しは悟ったのか
不思議な感覚が胸を刺す
あーこれは私にとって
すごく嫌な話になるのかなぁと・・・

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