レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.64
【過去の投稿です】
[73枚目]●ポール・ゲイトン『チェス・キング・オブ・ニュー・オーリンズ』<MCA/ユニヴァーサル>(89/14)
※本文を書くに当たり、文屋章さんのライナー(94年に一度リリースされた時の筆)及び、ビリー・ヴェラさんによるオリジナル・アルバムのライナー(邦訳・坂口紀三和さん)を大いに参考にしています。尚、ビリーさんはポールの友人でもあり、アルバムに使用したシングル盤の提供者でもある。
54年~59年に渡り<チェッカー><アーゴ><アンナ>に録音された作品を89年に<チェス>名義でLP、<MCA>名義でCDとしてリリース。更に14年、3曲ボーナスが追加され、日本<ユニヴァーサル>のシリーズ「チェス・ベストコレクション1000」の1枚としてリリースされている。私が持っているのはそれ。私は、黒人音楽を聴き始めの頃、ルイ・ジョーダン等ジャンプ・ブルース系の音楽によく親しんでいたので、ジャンピン・サウンドは今でも大好物である。本盤の内容もその範疇にある。素晴らしいテクニックに裏打ちされた痛快至極な曲集である。
ポール・ゲイトンは、20年、ルイジアナ州ケントウッドに生まれる。両親は教会で歌い、母親はリトル・ブラザー・モンゴメリーの妹、祖父はバイオリン弾きで、ジュークボックスを置いた酒場を経営するという環境で育つ。30年代半ばにミシシッピ州ジャクソンでプロの道に進み、47年からはニュー・オーリンズに落ち着く。ニュージャージー在<デラックス>レーベルのタレント・スカウトで契約。女性シンガー、アニー・ローリー(ダイナ・ワシントンがフェイヴァリット・シンガーに上げている)をフィーチャーした「シンス・アイ・フェル・フォー・ユー」を皮切りにヒット曲を連発する。<デラックス>は、デイヴ・バーソロミューやスマイリー・ルイスとも契約し、ニュー・オーリンズ・ジャンプ・ブルースの魅力を広めたとも言えるだろう。
しかし、49年には経営危機に陥り、<キング>に買い取られる。その際設立者のブラウン兄弟は別の協力者を得て<リーガル>を設立。ポール・ゲイトンに限って手放さず<リーガル>へ連れて行った。ここでも、ラリー・ダーネルをシンガーとした「フォー・ユー・マイ・ラブ」を始め、ヒット作は続く。しかし、残念な事に51年には破綻し<オーケー>へ移籍。ここでの「カウ・カウ・ブルース」が、ポールが放った最後のヒット曲となる。一方、この時代のニュー・オーリンズR&Bの代表格として名前がまず上がるデイヴ・バーソロミューは、<インペリアル>を舞台に、ファッツ・ドミノやスマイリー・ルイスらと共にヒットを量産する。ニュー・オーリンズ・サウンド全体を纏め上げたデイヴの功績は偉大だが、決してポールもそれに劣らない。本盤を通して聴けばそのサウンドの底抜けの明るさ、安定感、疾走感、リズムの粘り、絶妙な楽器同士の絡みに感心しきりである。本盤の舞台<チェス>においては、クラレンス・ヘンリー、シュガー・ボーイ・クロフォード、ボビー・チャールズらをプロデュースし、<チェス>のニュー・オーリンズ勢を世に知らしめた功績もある。
全ての曲ではないが、演奏メンバーは、ヴォーカルとピアノがポール、テナー・サックスがリー・アレン、バリトン・サックスがアルヴィン・"レッド"・タイラー、ベースがフランク・フィールド、ギターがエドガー・ブランチャード、そしてドラムがアール・パーマーという布陣だ。録音はほとんどがニュー・オーリンズにて。どの曲でどの楽器が表に出てきても、裏で支えても聴き応えあり。何度でも楽しめる。
①弾むリズムを止めた所でギターが切り込みヴォーカルが始まる。何ともカッコイイ!②少しテンポを落とし、ピアノを中心に、サックスも雰囲気を高める。③ジャンプ・ブルースの影を感じる。④タイトルは「ナーバス・ブギー」だが全く屈託が無い。リズムの刻みが心地良いドラムは、チャールズ・"ハングリー"・ウイリアムス。⑤<リーガル>時代、ラリー・ダーネル歌でヒットした「フォー・ユー・マイ・ラブ」をセルフカバー。エキゾチックに仕上げている。ドラムのリズム感、ギターのソロ・フレージング等最高!⑥臭み極まるサックスが主体のモッタリした曲調。ユーモア(ジャイヴ感)も十分。⑦正に曲自体が「ラウンド・アンド・ラウンド」している。ぐるんぐるん。⑧フルートとウクレレを使った癒しの1曲。タイトル通り、木陰でウトウトしながら自然の風に涼んでいるような。⑨まったりリズムの中、時々上がる「奇声」やギターが印象的。⑩特にピアノが楽しさを演出。⑪⑫の<アンナ>録音はやたら粘っこい。⑪のヴォーカル?はビリー・デイヴィス。⑫は⑪の低音部を増幅したような妖しさに満ちている。⑬これもサックス主体⑭女性シンガー、マートル・ジョーンズをフィーチャー。真っ直ぐな歌い方をする人で、典型的リズム&ブルース。⑮ラストはT.V.スリム名義のオマケ。リトル・リチャードにも通じそうな軽快なロックンロール・ブルースだ。
① You Better Believe It <チェッカー> (56)
② Mother Roux <チェッカー> (56)
③ Down Boy (54)
④ Nervous Boogie <アーゴ> (57)
⑤ For You My Love <チェス> (57)
⑥ The Sweeper <アーゴ> (57)
⑦ THE MUSIC GOES ROUND AND ROUND <アーゴ> (56)
⑧ Windy <アーゴ> (57)
⑨ Get It <チェッカー> (54)
⑩ Tickle Toe <アーゴ> (57)
⑪ Hot Cross Buns <アンナ> (59)
⑫ The Hunch <アンナ> (59)
⑬ Driving Home Part 2 <アーゴ>
⑭ Right to Love You (56)
⑮ T. V. Slim ..... Flatfoot Sam <チェッカー> (57)
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