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それってタイミングの問題なんだ/自閉症のブルー episode3

私はその人をブルーと呼んでいる。
自閉症のブルー。

さて
事件が起きたのは土曜日。

私たちは
前の日の夜から一緒にいた。
寝て起きておはようって言って
朝食を食べてから
散歩に出かけた。

しかし
帰ってきたら
なんと
ブルーは颯爽と部屋のカーテンを閉め
お風呂に入るっていうのだ。
驚いた。
AM11:00の出来事である。

どうやらブルーは思っているらしい
私と帰ってきたら
お風呂に入るものだ、と。

ブルーには
時間という概念があまりなく
順番でスケジュールを理解している。
あれが終わったらこれ
これが終わったらそれ
というふうに。

そして
だいたいの平日
私が夕方お迎えに行き
帰ってきたらブルーはお風呂に入る。
だから思っているらしい
"この人と帰ってきたらお風呂"と。

しかし今はまだお昼前だし
その上
今日は自宅に帰る日なのだ。

そこで私は思いついて
絵を描いた。

朝起きる
朝ご飯
散歩
お昼ご飯
散歩
家に帰る
お風呂

そして上から順番に3つ
バッテンで消して
「今お昼ご飯だよ」と言った。

そしたらブルーは
ああそうなのか
とわかってくれて
スッと自分の部屋に入っていった。

ところが
お昼ご飯を食べ終わるや否や
事態は一転。

激しい主張が始まった。
「散歩に行く!そして家に帰る!
いまから散歩に行く!早く行こう!いますぐ!」

まだだよ
とか
今他の人が帰ってくるのを待ってるから
出かけられないよ
とか
何回説明してもダメ。
挙げ句の果てに
「ベッドのシーツがないからつけて!」
などと
気にしてなかったことまで気にし始めて
そのときシーツは絶賛洗濯中にて
つけることができなかった。

自閉症のブルーにとって
物の位置や予定の順番は
極めて大切なことなのだ。

ブルーは言葉が話せない。
でも
私のそばをついて歩いて
怒ったような顔と指差しで
主張し続けたのだった。
「今すぐ散歩に行く!」
「家に帰る荷物を用意する!」
「シーツをつけて!」

無言のアピール。
この人は決して
他者や自分を叩いたり傷つけたりしない。

それでも大変であった。

やっとのことで散歩に行けたとき
私は疲れ果てて
つい言ってしまった
「なんでもっと楽しく過ごせないの?」と。
それからしばらく
プンと怒った顔のままブルーの隣を歩いた。

私はブルーといるのが好きだ。
好きなだけに
一緒に楽しめないのが
本当に切なく
苛立っていたのだ。

だけど次の瞬間に
猛烈な自己嫌悪に陥った。
この場合
悪いのは私だろう。
楽しくさせてあげられなかったのは
私だろう。
本来なら
この特性を知った上で整えるのが
支援者の役割と言える。

そのときふと
ブルーの顔を見ると
そこからは感情が読みとれない
真面目な表情で
前を向いて歩いていた。
まるで気にしていないとも受けとれる。
でもそうじゃなくて
伝えないと。

私は言った
「ごめんね、私が悪かった。予定を先に伝えすぎちゃったね。仲直りしたいんだ。」と。

そしてブルーの顔を見たら
思いっきり笑ってこっちを向いていた。
かわいいってずるいんだ。
私は胸がキューっとなった。

私たちは
仲直りの印に
公園のベンチでポカリスエットを飲んだ。
帰ったらシーツは乾いていて
すぐに
ブルーのお母さんが迎えに来た。

グループホームで暮らす
障がいのある彼らと
支援者としての私。
朝になったらみんなそれぞれ
仕事や作業所や生活介護施設に出かけて
夕方"ただいま〜"と帰ってくる。

家族でも友達でもないのだけど
いつでも
家みたいな暖かな場所で迎えたい。
そんな私たちの日々の記録。

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