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シチューの中身は


一日が終わる夕暮れ
鼻をくすぐる
何かを煮込む
いい匂い


シチューかな
お腹も空いてきた


ここのお店は初めてだけど
ちょっと寄ってみよう


厨房に目をやると


あれ?

なんだか変わったものを
鍋に投入している


あのー、
丸い玉のそれは
一体なんですか?


この玉ですか?


これはですね
食べる人それぞれが望む体験を
具材の玉にしたものです


各自が望むユニークな玉が、
それぞれのお皿に自然とよそわれ、
口にすることになります


面白いですね!


スープを飲んだ後、
新たな人生を歩み始めます


それぞれが望んだ体験を
するためにね


そうなんだ!


どれが美味しいとか
おすすめとかではなく


本人が望んだことを
体験する特製スープ
ってことなんだね


そうですね

皆さんは、
その体験を見事に
こなしていらっしゃる


例えば、
失敗したと思うことが
あったとします


それは
失敗するという体験を
見事にこなしていらっしゃるだけ


一度も失敗なんてしていないのですよ


皆さんが体験を楽しんでいる様子、
こちらからもよく見えます



ふ〜ん、
それなら、早速私も…



いえいえ、
貴方は、
前回飲んだシチューの、
体験途中ですよ!


ですから、新たなシチューは
ご用意できません


ただ、
せっかくおいでいただいたので、
こちらのドリンクでしたら、
どうぞ!


冷たくて美味しいですよ


体験が終わって
お戻りになったら
この用紙に感想をお書きいただけると、
今後の調合に大変助かります


ふむふむ
では、
無くさず大事にとっておこう



ドリンク、
ご馳走様!


店の扉を出ると、


あれ?
少し景色が違って見えた



すると、
後ろから声が聞こえた


先ほどのドリンク、
ちょっと調合しておきましたよー


貴方の選んだ玉の体験が
燻ってたようなので!



なるほど!
それはありがたい